小松弘子のブログ

やさしいエッセー

すれ違い

 最近主婦のあいだで「すれ違い」が原因で起きるドラマチックな別れの映画やドラマが話題になっている。また身近なところでも時折耳にするが、若い世代は男女ともに日常の生活が忙しいため「すれ違い」ができても、私は仕方ないと半分は同情している。

たとえ祝福されて幸せな結婚をしても「すれ違い」が引き金で、人生の波長が大きく狂い始め、最悪の場合離婚に発展してしまうケースが多い。自分だけは絶対に大丈夫と思い込んでいても、ある時ふっと魔がさしたように『すれ違い』が訪れる場合がある。そうなると突如として闇の中に放りこまれ平常心を失うことになる。

 例えば長年仲の良い夫婦でも、ほんの小さな心の「すれ違い」が溝になり、やがては破綻に発展するケースがある。日常の些末なずれが、お互いに心のしこりになり歩み寄れなければ面倒なことになる。女性は往々にして少しのずれを重大な問題として捉えやすい。ものごとを目先で判断し、結果を急ぎやすい傾向にあるように思う。

 逆に男性は、あまり深刻に考えずに遠くを見ている気がする。しっかりと女性の悩みを聞いてあげるのが『すれ違い』の危機を避けるための最良の方法かもしれない。女性の中には自分が中心になって世間が回っていると錯覚して行動するパターンがある。運転中にスーパーが見えると指示器を出さずにサッと曲ってしまったり、渋滞になると編み物をする人を見たことがある。本当に困ったもので当人は何も分かっていない。特に男女を問わず若い世代は何でも許されると思い込み行動する人がいるのも事実だ。若い人の特権だろうか?

 何事も始めは小さな「すれ違い」で始まる。最近の私事で「すれ違い」を経験してしまった。今になっておおいに反省している。

 毎月一回恒例となっているカラオケの練習会での出来事だ。

「小松ちゃん、来月も第四週目の月曜日に練習をしようと思っているけど大丈夫? 」

「いつも通りでOKよ。四時に出席しますのでよろしくね」

「じゃー皆さん、来月まで元気でね。楽しみにしていますよ」

「ちょっと待って!」

 私はみんなが帰ろうとしていた矢先、突然に

ある約束を思い出し、慌ててしゃべった。

「わあーごめん。この日予定があって、欠席させてもらいたいの。すっかり忘れていて申し訳ない。ごめんね」

「構わないけど、どうしたん。何かあったの?」

「実は息子と一週間ほど旅行することになっていたの。すっかり忘れてしまっていて」

と言葉にした途端に『あーしまったー』と私の隣にいた友人に目をやった。案の定、仲の良い友人はあっけにとられて物凄く不機嫌な顔をしていた。いつも何かと助けてもらっているこの人に先に伝えるべきだったのに、と私は自分の軽率さを思った。きっと気を悪くしているだろうな。弁解の余地もないくらい気まずい思いで一杯だった。

「わかったわ、仕方ないやん。でも小松ちゃんが欠席でも第四月曜日に練習しまーす! 皆さん出席してね!」

 そのあと皆で軽い食事に一緒に行ったが、何かしら白けた雰囲気だった。旅行の予定を友人に言いそびれていたことは事実だった。今までに何回か旅行に誘ってみたが、一度も実現したことがなかったので、今回も行かないだろうと軽く考えていた。また無理に薦めてもかえって負担を感じさせるはめにもなりかねないと勝手に判断したことが悪かったのだ。私はもっと相手の気持ちを慎重に考えて物事をしないといけない。

 あくる日、その友人に旅行に行くことを先に伝えなかったことを謝ったが、少ししこりが残った。何かしら一歩距離を置いて見ている自分が嫌だった。今思うと三回伝えるチャンスがあったのに、その度にいろんなことがあり言いそびれたのも本当だった。

 こんな小さなことでも人間の心は「すれ違い」を起こすのだから注意しないといけない。

身近な人からも親子の「すれ違い」の体験談を耳にしたことがあった。世間を騒がしている「オレオレ詐欺」もこのパターンに属する。この話もちょっとした気持ちの「すれ違いで起きる。親子関係のすきを狙って詐欺団のターゲットに利用されている。その結果大勢の年配者がいとも簡単に多額の損失を被ってしまう。

この詐欺団の被害に遭うのは年配の女性に多く、何故か男性はめったにいないのも不思議だ。うまく母性本能を利用しているのだろうか? マスコミの報道によると大切な自分の息子が交通事故を起こしたとか、勤め先の会社のお金を使い込んだとか騙されるネタが決まっていることが多いらしい。母親というのは信じこんでいる自分の子供に限ってまさか? と思ってしまいがちだ。この状況の時に相手は結論を急がせるので、通常の人はまんまとひっかかるみたいだ。この時落ち着いて行動すれば被害に遭わずに済んだかもしれない。

日常生活においていろんな『すれ違い』を経験していくが、上手く乗り切るための解決策は難しい。

結局は自分の信念を貫くこと、相手を大切にする気持ちを忘れないこと、本音を正直に相手に伝えること以外にないだろう。