小松弘子のブログ

やさしいエッセー

初めての海外旅行に挑戦

 神戸で生まれ育って七十年、今でも故郷の良さを十分に知らない。そこで最近はちょくちょく電車やバスに乗り、一人で街を歩くことにしている。

 そのたびに新しい発見をしている。自分の視野の狭まさや時代の流れを、自分の肌で感じることもある。

特に海外旅行を数回経験してからは、あらためて日本の良さを確信している。若い頃は正直に言って、自分の故郷のすべてが、当たり前の風景の中にあった。まして偶然にテレビで映る外国の景色も、ほとんど印象に残らない事が多かった。

結婚後、何十年か過ぎたある日のことだった。長男の息子が、

「お母さん、五月の連休に 『台湾』 に、旅行してみない? 最近、日本の観光客の間で人気があるらしいよ。もっとも話題になっている地域だよ」

と言った。 突然の海外旅行の誘いだったので驚いた。

「ふーん、そうなの…。 えっ、えっー、ちょっと待ってよ。それって外国へ旅をする、ということよね! でもね、一度も海外旅行の経験がないし、いま決めてと言われても、とても無理な話よ。それに、よく考えたら会社の仕事も残っているし、二匹のワンちゃんも置いてはいけないわね…。 自分一人で行って来たら?」

 本当は一度だけでも、外国へ行きたい思いはあった。しかし、あれこれと前後の事情を考えると、不安がつのり面倒くさくなった。

「うーん。どうしようかなあ…」

私が返事を渋っていると、

「でもさあ、本気で行こうと思えば可能性があるよ。せっかくのチャンスだし、今、決断しないと歳をとったら、歩くのも大変になると思うよ。ドンドン条件が難しくなって、もしかしたら海外旅行は、一生行けなくなるかもね」

 その言葉にショックを受けた私は、

「そうよねえ、わかったわ。本当は外国へ行ってみたいと思っていたのよ。早速、日程を調整して 『台湾』 へ行ってみようか!」 

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 と息子に告げた。

「へー、早い決断やなー。 そうと決まったら、『善は急げ』 で、来月の五月の連休に決めようか?」 

 ということで、息子と二人、初めて『台湾一周の旅』 の予定を立てた。

後日、旅行会社からパンフレットを取り寄せた。日本から近い 『台湾』 は、その当時テレビドラマからブームに火がついて、若者に人気があった観光地だった。パンフレットによると、主な観光地と主要な都市 (台北、高雄、台南)を、飛行機とバスで周遊する旅だったので、条件を納得、すぐに決定した。

 パスポートは二人とも持っていたので、スーツケースは小さめのジッパー式の物を買った。初めての海外旅行なので、ガイドブックは買ったが、出発前の準備や基礎知識の情報を読んでいると、頭が痛くなる。現地の気温や時差、服装や通貨と両替、トラブル対策。キリがないくらい問題山積だ。

海外に行くとき命の次に大事なのはパスポートだ。

ポケットや鞄に入れるのはもってのほかだ。腹巻状のパスポートケースを購入したが、結局のところ取り出すのが面倒だったが、一番安全らしい。

 さて三泊四日用の荷物の準備。これが一番厄介だ。手荷物検査で飛行機に持ち込めるものが制限されている。

 いよいよ旅行当日になり、関西国際空港へ向かうため事前に予約したタクシーに乗り、三宮からは空港行のリムジンバスを利用した。割安である。

関空までは意外と時間がかかり、二時間くらいかかった。

初めての国際空港を見て胸が高鳴った。まずは集合場所にいかなければならない。早速向かおうとした時に大事なことを忘れていたのに気がついた。

「あっそうだ、まだ両替していなかった!」

そうこうしている間に集合時間になり、旅行会社の添乗員さんから今回のツアーの説明が始まった。しばらくしてセキュリティチェックに向かったのだが、ここで失敗したことがある。空港内が乾燥しているせいか、ペットボトルを事前に買い込んでしまった。当然、この先は液体類を持ち込めない。泣く泣くごみ箱へ捨てた。ここから手荷物検査とボディーチェックを受ける。少し緊張する瞬間だった。

次は出国審査だ。順番がきたらパスポートと搭乗券を見せる。思わず老眼鏡を外して搭乗ゲートへ足を運んだ。

待合所は外国の人が目立つようになった。そうだ、もう自分も他人の目からは、外国人に間違いないのだ。何も恐れることはない。搭乗はまずビジネスクラス利用者が優先だ。次は障碍を持つ人、最後にエコノミークラスの、私達が機内に乗り込む。

飛行機はキャセイパシフィックの航空会社だった。

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午前十一時十五分、台湾桃園国際空港へ向けて出発した。やがて加速に入る。一瞬身体がふっと浮かぶ。機体は大空へ飛び立った。窓から見える景色がどんどんと遠くなっていく。まるでジオラマを見ているかのように、町が小さくなっていた。

 台湾までは約二時間半の空旅だ。座席前にあるモニターを眺めながら、時折窓の外を見ると、眼下の島々が地図帳で見るようだった。

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 時計を見たら、そろそろ台湾に着く頃の時間だ。外には飛行場らしきものが見えてきた。まもなく着陸態勢に入る。十三時十分、無事、台北にある桃園国際空港へ着陸した。安堵が広がった。

さて、いよいよ初めて異国の地を踏む。今回は日本からの添乗員がいないため、各自でまずは入国審査を受ける。台湾では入境という。台湾人は日本人に好意的だとは聞いていたが、どうだろう?

審査を無事終えた後、預けたスーツケースなどを取りに行った。海外の空港では荷物が行方不明になることが、多々あるらしい。ハンカチを巻き付けるとか、自分だけの目印を付けておかくことが大事だ。

一日目の目的地、「花蓮」 へ向け、国内線の飛行機に乗り継ぐ。海外旅行の場合、バスの座席は基本自由に選べるようだ。台湾では 目的地への移動は小さな飛行機が最短の方法であった。これが後々えらいことになるのだが…。

ようやく花蓮に着いた。まずは広東料理の夕食後、台湾の先住民族のアミ文化村にて、民族舞踊を楽しんだ。夜も更けてホテルへ帰ろうとした時、辺りが突然闇に包まれた。何事か? 停電? 一行は騒然とする。なんと「灯火管制」の訓練だと言うのだ。私達は驚きと戸惑いを隠せない中、非常灯の灯りを頼りに、帰りのバスへと向かった。

さて団体旅行というものは、朝の出発時間がとても早い。

二日目は「太魯閣峡谷」観光だ。大理石の断崖絶壁が二十㎞も続き、峡谷で自然が生んだ壮大なパノラマを、何カ所か歩いた。

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太魯閣峡谷

それにしても五月だというのに蒸し暑い。喉が渇いたのでカフェオレを飲んだ。冷たくて美味しい。がふと気がついた。氷が入っている。しまった! 生水、氷、生ものの類はご法度だ。

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海外では当然、飲み水はペットボトルのミネラルウオーターが必須なのを思い出した。

次に 「高雄」 へ移動したが、プロペラ機と思わんばかりの小さな機体で、正直言って怖い。

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高雄市

一時間程で高雄に到着。絢爛豪華な五甲龍成宮、春秋閣、中国の西湖十景を模して造られた澄清湖を観光。その後、ショッピングへ。

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ツアー客たちが、お土産を買う時間である。不思議に気が大きくなり、ついつい金銭感覚を狂う。結局、自分達も台湾ヒスイの腕輪と、魔除け開運の獅子の置物を買った。商売上手な店員さんに、まんまと高い物を買わされてしまった。まあ今となれば良い思い出かな?

 夜は夕食のフカヒレをはじめとする潮州料理を味わった後、六合二路夜市を散策。

 その後ホテルに戻り、部屋の鍵の開け方を忘れて困ってしまった。その時、息子がホテルの人に簡単な英語と、身振り手振りで解決してくれ助かった。

英語を勉強した方が良いと思った。小さな失敗も多かったが、それなりに楽しかった。

ところで現地の気候だが、外気と部屋の温度差が激しくて、身体に堪えた。

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三日目、壽山公園を散策した。台湾は日本の昔懐かしい風景が見られるというが、その通りで建物を含め、昭和の雰囲気を味わった。

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台南市

 午後からはバスにて「台南」へ。オランダ統治下に建てられた赤嵌樓、孔子廟と台湾をオランダから解放した英雄、鄭成功を祀る延平群王祠を見学した。昼食は飲茶で本場の餃子や春巻きに舌包み。

 次に航空機で台南から首都「台北」へ。この日はあいにくの雨模様だった。

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中正紀念堂

台北市内最古の寺廟龍山寺蒋介石元総統を偲び建てられた中正紀念堂を訪れ、衛兵交代式を見物。夕食は北京ダックと新中華料理を賞味した。

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そして台湾の旅も最終日の四日目を迎えた。まず忠烈祠で衛兵交代式を見た後、故宮博物院へ。ここは世界四大博物館にも名を連ね、中国の歴史が詰まった博物館で、中国歴代王朝の秘蔵品などを観賞した。なるほど中国四千年の歴史を感じさせている。昼食に上海点心を食べ終えると、台湾の旅も終わりに近づく。

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故宮博物院

 午後四時、私達は台湾を出発し、日本へ向かって帰国の途に着いた。

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台北101

記念すべき初の海外旅行が、台湾であった。色々な発見や体験をすることができ、文化、習慣の違いやその国の風景を、実際にこの目で確かめることができたのは、大きな収穫だった。また是非挑戦したいと思った。