小松弘子のブログ

やさしいエッセー

小説を読み始めた

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 八月半ばから降り始めた雨は、九月になっても降ったりやんだりの、うっとうしい天気が続いた。そもそも近畿地方では例年、八月は雨の日が少なく日本独特の蒸し暑さに悩まされるのが通常だ。

 ところが今年は真夏にもかかわらず、日中にもかかわらず涼しい日が何回もあり、異常なほどの天候不順に驚いている。

 とうとう九月半ばになっても雨の日が多く、一向に季節の変化が感じられない。天変地異の前触れなのか? 

 そんな中、一年前から始めた 「グラウンドゴルフ」 も、八月と九月前半は長雨で中止の日が多く、残念ながら参加できたのは数回だけで、退屈な毎日でウンザリだった。

 今、なぜ日本の天候不順が続くのか。テレビの天気予報解説者も、天気図の示すままに喋っているだけで、異常の原因ははっきりしない様子だ。

 お陰で夏としては涼しくて、生活するには良かったが、反対に農作物等の生育についてはどうなのか?と、素人の私も心配になっている。また、このところ頻繁に列島のあちこちで、小さな地震のニュースが報道されている。何か可笑しい…。

 しかし乍ら、あれこれと旋削しても当然、私の知恵では埒が明かないので、他のことに目を向けようと考えることにした。

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 ある日のこと 「グラウンドゴルフ」 に誘ってくれた兄嫁さんが、仲の良いお友達と楽しそうに、お喋りしているのが見えた。聞くともなく様子を見ていたら、いきなり大きな笑い声がしたので振り向いた。 

 どうも小説本の話題らしい話しぶりだった。最近、自分達の持っている本の貸し借りを始めたようだった。お互いの作家の好みが同じだったらしくて、意気統合した笑い声だったのだ。とても幸せいっぱいの顔に見えた。

 「グラウンドゴルフ」 の開始までの数分間だったが、お互いの笑い声がとても楽しそうで、思わず私も、その会話に中に引き込まれてしまった。

「アラッ、小松さん、あなたもこの本を読んでみる? とても面白いわよー」

 いきなり兄嫁さんに声をかけられたので、

「まあ、嬉しいわ! 読んでみたいわ」

 と、即答したが私はもう長い間、本を読んでいなかったので一瞬返事にとまどっていると、

「じゃあ、この三冊貸してあげるから読んでみて。少し昔の本が多いけれど、良かったら貸してあげるわ」

 いつも元気な兄嫁さんの声に圧倒された。

「有難う。帰ったらすぐ読ましてもらうわね。でも最近は全然読んでいないから時間がかかりそう…」

 自信のない私の返事に、

「大丈夫よ。私だって本を読み始めには時間かかったものよ。誰も同じなので心配しないでゆっくりで良いわよ」

 と、励ましてくれた。その後も何回も本を貸してくれた。あまりにも沢山の本に驚かされたが、若い頃から暇な時間はあれば読書を続けているらしかった。

「お姉さんの場合、一冊どれくらいの時間で読めるの?」

 私の場合は最初に借りた推理小説の単行本でも、三日間も費やしたので、やれやれ老化が始まったのだと実感した。

「ああ、そんなこと? まあー、面白い本だったら一日で読み終えるわね。一日で三冊読むこともあるけれど、時間はあまり気にしないわ。ゆっくり三日間もかかる時もあるしね。昔の本を何度も繰り返し読むこともあるわ。でも、だいたい興味がある本は、一日中何もしないで読むことにしてるのよ」

「へえー。たったの一日でねー。すごいわねー。私も早く読めるように頑張ろうーっと」

 あくる日から家事は手抜きで、借りた三冊を読みふけったものの、四冊目になると少し目が疲れてきて中断した。

 同じ作家さんのシリーズだったので、一冊目は読み終えるのに確かに時間がかかったが、とにかく興味のありそうなものから手に取った。

赤川次郎氏の 「手紙」 という題名に、何かしら惹かれ最初に読むことにした。

 そういえば、このあいだの二人の会話を聞いた時、ぜひこの本を読んでみたいと思った。

「あの赤川次郎の本の中でも、 特に 「手紙」 は本当に何度読んでも泣かされるわね」

 と、二人が感激して話していたことを思い出した。私も読んでみて思ったが、あの切ない兄弟愛の物語は何とも感動的だったことに間違いはなった。しかしながら物語の最終編は、肉親といえども自分自身が、一番大切だと結論を出していることが意外だった。

 やはり、人間の本質である最も醜い辛い感情が最後まで描かれて、本当に切ないと思った。親子とは違う兄弟の絆の違いは何だろう…。 読み終えて私は考えさせられた。人それぞれだろうが本当に難しいと、思わずにいられなかった。

 その後、何冊かの赤川次郎氏シリーズや、他の推理小説も二十冊くらい読むことができて喜んでいる。

 最近、女性作家 「山崎豊子氏」 の「女系家族」 を貸してもらった。やはり女性作家の本も絶対に挑戦したいと、思っていたところだったので嬉しかった。

 多分、私が推理小説に飽きてしまったことに、兄嫁さんが気をきかせてくれたのだろう…。実はその通りで推理小説は面白かったが、ある昔の推理小説を読んでいる途中で、ふと女性独特の単純な推理に、少し興味が失せてしまったことがあった。

 その後、少し本から遠ざかったが、ある日のこと、一度は読んでみたかった 「山崎豊子氏」 の本に出合えたことは、貴重な良いタイミングだったと思う。これからはこのような本にめぐり合いたいと感じた。

 

2021/10/14 #109