超巨大な ひまわりダリア
小さな庭で咲いていた一本のダリアが、とうとう枯れた。冬の寒さに耐えながら、昨日まで私を和ませてくれたが、今朝は哀れな姿に変わっていた。昨晩は急に温度が下がり、耐えきれなかったのだろう。
「可哀そうなことをした。このあいだスーパーで買った簡易温室に入れたら、枯れずにすんだかも…」
後悔しつつも、やっぱり本来ダリアは夏から秋にかけて咲く花なので、仕方がないと勝手に解釈した。このダリアは一本の枝から、周りに十本の小枝が出て大きな株になった。暖冬のせいか今年の二月まで、次から次に紫色の二十個の花が咲いた。この株は五十粒の種の内、たったの一粒だけが発芽したものだ。
やっとのこと育ったダリアなので、余計にいとおしい。それでも枯れてしまっては、捨てなければと、鋏で枯れたダリアの花と茎を切った。ゴミ箱に入れながら、
「長い間、綺麗に咲いてくれて本当に有難う。もし残ったこの球根が元気でいてくれたら、秋にまた会えるわね」
こんな会話を楽しんだ。もう少し名残りを惜しんでみたかったが、寒かったのですぐに家に入った。
このダリアは一昨年の秋、兵庫県川西市の 『黒川ダリア園』 でもらった種である。今までダリアの花は、球根で咲くものだと思っていたが、この時に種子からでも栽培できることを知った。
ある春の日、プランターを覗いて驚いた。
「まあ、ダリアの芽が出ている。本当に可愛い!」
発芽を半ば諦めかけていたので、嬉しい衝撃だった。その日から毎日のように、ダリアの水やりや観察が始まった。
初夏になり茎が太くなりはじめ、真夏に八十センチの高さになった。それから二カ月がたち、ダリアの株はだんだん太く、大きく育った。
秋になり、やっと待望のダリアの蕾が、一つだけついた。
「どんな花が咲くのだろう? 花の色はなに色だろうか? 」
毎朝プランターを見るのが楽しみになった。蕾の直径がやっと二センチになった。
「楽しみだわ。もっと大きくなるのかなあ」
しかし巨大ダリアの種類ではなかった。夢が半分消えたようで、少しがっかりした。しかし、よく考えてみたら、初めて芽を出してくれた時は、嬉しかったのは事実だ。
今、一生懸命に花を咲かせようとしているダリアを見守ろう。花が枯れる迄まで、大切に育てようと改めて思った。どうやら子育てと似ている。そんな貴重な体験だった。
十月末、もう一度ダリア園を訪れようと、息子を誘った。
「また同じところにダリアを見に行くの! お母さん達はもう三回目と違うの。僕は花の撮影なんて興味ないし、一時間半もかけ行きたくないよ!」
「でもね、見たこともない超巨大ダリアが咲いているのよ。どうしてもあの花だけは、写真に残しておきたいのよ。あなたも見たら、きっと驚くわよ。見なきゃ損よ」
「だったら二人でどうぞ!」
と言っていた息子だが、しぶしぶ行く羽目になった。
あの超巨大なダリアを見せて、息子をビックリさせる狙いもあった。二時間かかったが、三人で川西市ダリア園に着いた。
「ふーん、随分田舎みたいなところやな」
まだ、むつっとした息子が、しかたなさそうに私達の後から畑に入ってきた。
「こっちに来てー。前回より花が大きくなって綺麗よ! ほら見て、すごく変わったダリアが見つかったよ」
私はあの超巨大ダリアを探しながら、畑をかけまわった。後ろを振り向くと、カメラを持った息子達が、楽しそうに歩いていた。
「初めてダリアをじっくり見たけれど、本当にすごく綺麗だし、いろいろな種類があるものだなあ。天気も良いし、ここに来てよかった!」
二人とも心から喜んでいるようだった。息子達はもうよせばいいのにと思うくらい、ドンドンと写真を撮っていた。
その様子を見て嬉しかった。しばらくして息子の声がした。
「こっちに来てみてー。ここに超巨大ダリアがあるよ!」
「わかったわ。でも、こっちも超巨大ダリアを見つけたのよ!」
大きな声だったのか、周りの人も珍し気に、その付近のダリアを見て感心していた。丁度、係の人がいたので質問をした。
「超巨大ダリアはどうやって作るのですか? 何か特別な秘訣はありますか」
「いやあ、ここで開園してから四年になるけれど、毎年、種子が風によって交配を繰り返するので、大きさは勿論のこと、秋に初めて咲かないとわからないんだ。今までに見たこともない美しいダリアに出会えたこともあったよ」
「へえー。そうなのですか」
帰宅してから、入場券に添えられたパンフレットを読んだ。しかしながら、なぜ巨大ダリアになるのかは書いていなかった。
つい最近になって、家にある花図鑑を調べようと思った。ワクワクしながらダリアのページをめくった。四冊目の本で、やっと謎が解けた。日本の巨大菊と同じ要領で育てると良いらしいと説明していた。
しかし、あくまで園芸の流儀はいろいろあって、完成度を極めるのは難しいらしい。忍耐と努力が必須と書いてあった。
何事も一流になるのは大変だ。