小松弘子のブログ

やさしいエッセー

ポピーと潮風の淡路島

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 春のお彼岸に主人のお墓参りを済ませてから、二カ月を過ぎた五月中旬のある夕方。何気なくテレビを見ていると、兵庫県南部の 「淡路島」 の、美しい風景の数々を紹介していた。

「ふーん、淡路島の景色か…。何度も行った土地だ。たいして珍しくも無いけれど、まあ見ておこう」

 と、夕食の用意をしながら、時々テレビに目をやった。最近は一日のうちで、一番忙しい夕方の時間帯だった。

 ところが、ある花のワンシーンを見た一瞬、画面に釘づけになってしまったのだ。

「わあー、すごく綺麗な花の群生! 赤、黄、白、オレンジ色、間違いなくポピーだわ! 素敵な景色」

 思わずその彩りの美しさに、見とれてしまった。五月独特の青空の下、見事に咲き誇っている 「ポピー」 が、やさしい風に揺れているのだった。

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 その瞬間、ぜひこの美しい花を、今この季節に見たいと思った。今までに 「ポピー」 の、花がこんなにも群生して咲いているのを見たことがなかった。

「なんと美しい光景だろう。実際にこの目で見たい!」

 テレビの解説によると、昨年も今年と同様に 「アイリッシュポピー」 は、見ごろを迎えたが、コロナ禍の影響で観光が中止になっていたのだった。今年は一時的に観光が緩和されているので、ぜひ見事に咲いた 「ポピー」 を、見に来てほしいとPRしていた。この映像を見た人は、本当に行ってみたくなるだろうなあ…。

「ポピー」 の、咲いている場所は 「兵庫県立あわじ花さじき」 の、瀬戸内海に面した一角にあるらしい。

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 神戸方面からだと、「淡路IC」 出口の交差点を直進、県道百五十七号沿いに南へ約十二分に位置している県立公園で規模は大きい。嬉しいことに、家からだと三十分位で、「ポピー」 が見られるのだ。丁度、明日は土曜日で 「淡路島」 へ行ける絶好の機会かもしれない…。

 ふと、若い頃の思い出が頭をよぎった。「淡路島」 へは、たびたび訪れたが、観光ではなく、主人の御先祖様のお墓参りや、両親の家に遊びに行くことが多かった。家族と一緒にのんびり過ごしていた。

 あの時代は子育てや仕事に追われ 「淡路島」 の、歴史や名所旧跡に触れることを、あまりしなかったように思う。やっと十年位前から、遅ればせながら自分も旅を楽しむようになった。

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 ただ一番残念に思うのは、最良の 「淡路島」 を知らないで、素通りしてきたことだと気がついた。

 年老いた今頃になって、主人の故郷である 「淡路島」 の、歴史や土地柄の素晴らしさに目を向けなかったことだ。当時を振り返ってみても、正直言って若気の至りとはいえ許されることではない。全く勿体ない時間を費やしたと反省している。

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 さて、テレビで 「ポピー」 を見た次の日が、土曜日だったので、夕食後に息子に言ってみた。

「あのね。明日はすごく良い天気だし、久しぶりに

「淡路島」 に行きたいと思っているの。今日のテレビで 「ポピー」 の花が見ごろらしいので、皆で行ってみない?」

「ふーん、そうやなあ、最近はコロナ禍で、長い間 「淡路島」 もご無沙汰していたので、「花」 の写真でも撮りに行こうか」

 と、息子が機嫌の良い返事をしてくれた。

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「わあ、嬉しいわ。「淡路島」 まで、家から三十分位で到着できるわね。近距離なのが良かったわ。とにかく群生した 「ポピー」 の花は、見たことが無いので本当に楽しみだわ。有難う」

「でもさあ、「ポピー」 の咲いている場所が何処なのか、キッチリと調べておいてね」 

「うん、分かっているわ。テレビを見ながらメモしておいたから、大丈夫よ」

 翌朝、九時に家を出発したので、スムースに念願の 「あわじ花さじき」 に到着した。爽やかな風が吹く駐車場から、小高い丘へ歩いて行った。そこから遠くに、瀬戸内の真っ青な海と空が広がっていた。観光客がほとんどいない緑一杯の丘から、三百六十度のパノラマの壮大な景色が見えた。

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「わー、すごくのんびりした風景ね。とっても気持ちが良いわ。広々とした公園に綺麗な花が一杯よ。空気が美味しいね」 

「そうだね。とてつもなく広い公園だね。どこかの外国の景色によく似ているね。まるで絵に描いたような美しさだね」

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 皆は久しぶりの開放感に、酔いしれているようだった。私はすぐさま色とりどりの「ポピー」 が、咲いている方へ走っていった。そこに小さな女の子が一人、自分で摘んだと思える五本位の 「ポピー」 の、花を持ってポツンと突っ立っていた。

「まあ、可愛いこと!」

女の子は周り一面の 「ポピー」 に、囲まれ、幸せな風に吹かれ、微笑んでいるように見えた。

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 私も童心に帰り飽きることなく、赤、黄、白、オレンジの 「ポピー」 の、咲き誇る丘を一時間位、登ったり下ったりした。よく見ると、他にもいろいろな花壇があったが、やはり 「ポピー」 を、追い続けた。

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「アラッ、ずーっと向こうの丘に乳牛がいるよ。きっと、

牧草が美味しくて満足しているみたいだね」 

広々とした牧場に遊ぶ黒毛和牛を見て、息子が言った。

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「ここは牛乳の生産も盛んで、アイスクリームも美味しいらしいよ。ついでに食べて帰ろうか?」 

「じゃあ、私は売店に寄って 「淡路島」 名産の、「玉ねぎを買って帰るわ」

 久しぶりだったので売店中をうろうろとしていたら、おもむろに入ってきた友人が言った。

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「もう、そろそろ 帰ろうか?」

「エエッツ、もう…」 

「だって、お客さんが増えてきたみたいだよ」 

「そうねえ、残念だけれど仕方ないわねえ」

緑の風と素晴らしかった 「兵庫県立あわじ花さじき」 公園。

 今度来る時は、もっとゆっくりしたいなあ…。 

 

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2021/05/21 #104