小松弘子のブログ

やさしいエッセー

花のように

『花のように』 の、歌のタイトルを思いついたのは、もう十二年前のことだ。その頃、勤めていた会社の近くに花屋さんがあった。毎日のようにその花屋さんの店先に並ぶ、いきいきとした花を眺めるのが楽しみだった。

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時々、店に立ち寄って美しく咲いた花を、買いたいと思うようになった。毎回、通り過ぎて見るだけではつまらないわ…。季節の変わり目には、必ず鉢植えの花を買う癖がついた。家に帰って綺麗に咲いた花を見ていると、心が和むことに気がついた。

そのうちに野菜の苗も育てたいと思うほどになった。それまで本格的に植物を育てたことが無かったので、本屋さんにまで足を運んで本を何冊か買った。

本を読むことにより、これまでの生活が一変し、潤いと活力がみなぎってきたことを感じた。不思議に生活に張りを感じ、楽しくなったのは事実だ。

 子供の頃から花は好きだったが、育てたことはあまりなかった。たいがいは母が生け花を習うようになってから、その花を遠くから眺めていたものだ。母も花が好きだったが、絶対私に触らせなかった。自分だけの世界があったようで、その時だけは機嫌よく良い顔をしていた。

だから、いつか自分の手で自由に花に触れたい、と思っていたのは確かだった。

そんな独身時代が終わり、結婚生活に入ったが、残念ながら四十年で夫と他界してしまった。その後、親の店で働くようになった。

そんな生活が五年位続いたある日、今だ! どんなに花を買って帰っても、文句を言う人もいないことに気がついた。自分は単純に花が好きなのだ。ただそれだけかもしれないが、その日のから、ますます花に愛着を感じ始めた。大切に育てると答えに、綺麗な花が咲いてくれた。

もう一つ花にまつわる苦い経験があった…。終戦後七年経った五歳の秋の夕方だった。

全く知らない年上の女の子達と、行ったことの無い公園で一時間くらい遊んでいた。むろん公園と言っても、戦争で荒れ果てただけの小さな空き地だ。

 その時、ふと一本のピンクの花が目に入った。

「わあ、なんて綺麗な花なんだろう」

 私はその花の美しさに、長い間見とれていた。何という名前なんだろう。顔を近づけて香りを確かめた。

「ウーン、白色とか黄色の菊は見たことがあるわ。この花はとても小さいけれど、きっと菊だわ」

 なぜだか不思議に花の名前がでてきた。当時、庶民の私達に花を楽しむ余裕はなかった。それくらい食べることが精一杯の時代だった。

 住んでいる町で作られた花を、見た記憶が全然なかった。幼い頃、春になると兄達に連れられて、畑のあぜ道に咲いている帰路や青色の、とても小さな野草を摘んだものだった。それはそれで美しいと思った。

 ただ菊の花だけは、家にある姉の仏前で見ていたので、花の名前を知っていた。しかし、仏前で飾られた菊を見ても、一度も美しいと感じたことはなかった。

 それは、仏壇に神妙に手を合わせている、母の淋しそうな顔が気になっていたからだと思う。二歳で亡くなったという姉の戒名を、じっと見つめていただけだった。幼過ぎて悲しい感情は分からなったのだろう。

 遊んでいたその公園で、私はピンクの小さな菊を二十分位見続けていたと想う。

 突然、一緒にいた見知らぬ五年生位の女の子が、私にピシャリと言った。

「あんた、ずっとあの花を見ていたけれど、あの花を

盗ろうとして思っていたんでしょ!」

 いきなり怒った様子で喋りかかった。

「えっつ、違うわ! 」

私は青天の霹靂というか、全く驚いた。女の子はキッと怖い顔で睨み続けていた。

「いいえ、絶対にそうよ! そうに決まっているわ!」

 私は恐くなって、友達と一緒に走ってその場から逃げた。今でもその子の顔を覚えている。

 今振り返り考えると、その子もきっとあの花が気に入っていたのだと…。あの公園に沢山の花が咲いていたら、良かったものを…。

 


♪「花のように」小松弘子 神戸在住シンガーソングライター Song:”Like a Flower"

 

花のように

 

春の嵐に 耐え切れず

はらはら舞い散る 桜花

花の命の儚さに 心乱れて空を見る

女の哀しさ 女の喜び

花のように人の世に きれいに咲きたい

春の嵐に 耐え切れず

はらはら舞い散る さくら花

はらはら舞い散る さくら花

 

寒い北風 吹く中を

秋から冬へと 花は咲く

今日を限りの うるわしさ 心豊かに空を見る

希望があふれる 未来の倖せ

花のように人の世に きれいに咲きたい

冬の寒さに 耐えながら

次から次へと 花は咲く

次から次へと 花は咲く

 

気高い香りと 気高いやさしさ

花のように人の世に きれいに咲きたい

春の嵐に 耐え切れず

はらはら舞い散る さくら花

はらはら舞い散る さくら花

 

2020/06/19 #78