小松弘子のブログ

やさしいエッセー

足吊り岬? いいえ足摺岬

 四国『足摺岬』 は、今までに八回位、訪れたことがある。家から車で片道だけで六時間以上かかる程、遠い岬である。高知県の一番西の最南端に、位置している岬。近畿圏からだと、もちろん日帰り旅行では、とうてい無理な距離だ。

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 しかし、『足摺岬』 に、一度でも足を踏み入れると、不思議にその広大な太平洋に魅了され、何度でも訪れたいと思うだろう。自然の魅力が一杯の岬の景色は、日本中どこも素晴らしい。

足摺岬』 の崖っぷちの下は、白く逆巻く波に圧倒されたものだ。毎年、台風シーズンになると、この 『足摺岬』 の、風雨の様子がテレビで映し出されている。自然の猛威というか、ある意味で自然の偉大さに感動を覚えるものだ。

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 そもそも、岬を見物するために、なぜこんな遠い地を選んだのか。最初は歌の仲間達と、四国巡礼の旅に、ご一緒させてもらったことから始まったと思う。

 五度目の旅をした時に、途中で道に迷ってしまった。その時、地元のボランティア活動をしているMさんが、いろいろと親切に道案内をしてくれた。また近道の新道まで教えてくれたおかげで、とても早く帰宅することができ本当に助かった。

 Mさんとは、その後も時々、近況のお知らせの手紙を頂いたりした。今も有難い気持で一杯だ。私よりずいぶん若かったが、今もボランティア活動に精を出しているという。時々、あの日の会話を思い出したりして、懐かしく思っている。

 もう一つ、『足摺岬』 の、歌にまつわる面白いエピソードがある。

 ある時、次男家族が家に遊びに来た日のこと。

「あのね。今度、三人で 『足摺』 に、行こうと思っているの。だから来週か再来週は、留守になるかもね 

 私がそこまで言うと、いきなり次男が、

「なっ、なにっ、足釣りっ。そんな怖いところへ行くって! 」

 とても驚いた声で叫んだ。

「えっえっ、どうしたの? 何を言ってるのよ」 

 次男の声に、私の方が驚いた。

「だって、足が吊るって、今お母さんが言ったじゃん。足が吊るって、とても痛いし、大変な事だよ」 

 あくまでも真剣な表情に、私は可笑しくなって、思わず笑い出した。

「何を感違いしているのよ。 『足摺岬』 へ、行くと言ったのに。アッ、ハッハッハ。ああ、面白い!」

 この時、はたと次男は自分の間違いに、気がついたようだった。

 丁度、次男のお嫁さんがドアを開け入ってきた。

「どうしたの? 何か面白いことが始まるの?」

キョトンとしたお嫁さんの顔を見るなり、次男は救われたように溺れかかった時の、昔話を始めた。

私は以前に二度ほど聞いたことがあったので、黙って聞くことにした。

「イヤー。実は今、海で足が吊った話をしていてね…」

「まあ、足が吊るって怖いわ。それでどうしたの?」

「うん、ずいぶんと昔のことだけれどさー。中学一年生の夏に寄り道をして、友達と二人で須磨の海へ泳ぎに行ったんだ。身体が冷えて足が動かなくなり、溺れかかったことがあったんだ。二百メートル沖まで泳げたのは嬉しかったのだけれど、いきなり足が吊ってしまって、すごく慌てたことがあってなあ。もう絶対、ここで死んでしまうかと思ったんだよ」 

「へえー。そんな怖いことを経験したの。その話、初めて聞いたわ」

 お嫁さんは他人事では済まされない感じで頷いていた。自分の子供に置き換えているみたいに見えた。

「まあ、怖い。怖い話だけれど、誰にでも起こる可能性があるわ!」

 私がこの事件を聞かされたのは、次男が高校生になった頃だった。それまで言わなかったのは、きっと親に叱られるのが分かっていたので隠していたのだ。

まあ、無事だったから良かったものを、一つ間違えば大変なことになっていただろう…。

「それで、海で溺れそうになってから、どうやって助かったの?」

 お嫁さんは心配顔で、話の成り行きを聞いていた。

「うん。とにかくびっくりしたし、すごく焦って水をがぶがぶ飲みそうになった時、突然に神戸のおじいちゃんの声を思い出したんや。 『もし、海の中で足が吊ったりした時は、慌てずに一旦海の底まで沈むんやで。おじいちゃんも子供の頃、川で泳いでいて足が吊ったことがあってな。どうしょうかと焦ったよ。その時、思いっきってエイッっと、川の底まで沈んだら、不思議に落ち着くことができたんや。それで足が元に戻るまで、こうやって足の指を自分の方へ曲げると、自然に治ったんだ』 おじいちゃんに教えてもらったのを思い出してして、本当に助かったよ」

「ふーん、そうだったのね。本当に治って良かったわね」

 次男夫婦のしんみりとした会話を聞いて、この先もきっと気の合う夫婦になるだろうと思った。

『足釣り岬』 いいえ、 『足摺岬』 ですよ!

 


🎵「足摺岬」小松弘子 神戸在住シンガーソングライター KOCHI,Japan Song "Cape ASIZURI"

 

        足摺岬

  

  帰ってきたよ 土佐高知

  黒潮 おどる 僕のふるさと 

  空の高さと 広い海 

  心の すき間 うずめてくれる

  ああ 昔のままの 足摺岬 

 

  どこまで続く 蒼い海 

  希望に光る 水平線よ

  夢を追いかけ 泣いた日々

  ハマナスの花 咲いてておくれ 

  ああ 風が泣く泣く 足摺岬 

 

  長い人生 旅人は

  つまずき 倒れ 故郷 想う 

  僕を 呼んでる 燈台よ 

  心の 闇を 照らしておくれ

  ああ 明日へ 続く 足摺岬 

 

      作曲 板谷隆司

      編曲 前田秀博

2020/06/13 #77