小松弘子のブログ

やさしいエッセー

人気の珈琲屋さん

 二〇二一年一月二日、神戸市全体は冬の寒さの中にも、日差しは春のような太陽が降り注いでいた。年末から寒波の影響で寒い日が続いていたが、今朝の空は明るくて、少し暖かみを感じた。

 近くに住む兄夫婦に、初詣のこと何か教えてもらおうと電話をかけた。兄夫婦にはグランドゴルフで何かとお世話になっている。年始に電話をかけるのは久しぶりだった。

「もしもし、おめでとうございます。昨年はいろいろとお世話になりまして有難うございました。本年もどうぞよろしくお願いします」

兄が先に電話口に出てくれた。

「おめでとうさん、こちらこそよろしくね。ああ、ちょっと嫁さんに変わるね」

と、言って兄嫁さんの中子さんに変わった。お互いにお決まりの挨拶を交わした。話の中で昨日の朝早く、家族ずれで地元の長田神社に初詣を済ませたことが分かった。また今年はコロナ禍で、三社参りは断念したとのこと。初詣の人並みは去年と比べ、グッと少なかったらしい。

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 良い情報をもらったので、「密」 を避けるため、我が家も早速、長田神社の初詣に出かけた。神社近くの商店街はいつになくひっそりとしていた。コロナの影響を受け周辺の人通りも少なかった。皆マスク姿で喋り声さえまばらだった。

「寂しいなあ。帰り道このままどこにも行けない?」 私は折角のお正月が勿体ない気がした。そうだ帰り道を変更してみたら、何かを発見できるかもしれないと思った。そうだ、須磨区に入れば美しい松並木の続く浜辺を見ることができるだろう。

その間、車窓から見るともなく古い建物や、近代的な建物が、ごちゃごちゃと混ざった街並みをボーっとして眺めていた。どこか空しい景色に感じたこれもコロナ禍のせいだろうか?

 しばらくして須磨区に入ると、パッと視界が広い海に変わった。そのまま海岸線を西へ八キロ位走ると、前方には雄大明石海峡大橋が、高くそびえているのが見えた。

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「わあ、いつ見ても素晴らしい景色だ。特に今日のように晴天の日は絶景ね」

昔から歌に歌われている舞子の浜付近は、とても眺望が美しくて風光明媚な場所である。お正月二日目なので国道を走るトラックが見当たらない。いつもより空気が綺麗だと思った。そのうちに少し渋滞気味になり、何回か赤信号に引っかかった。

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「ねえ、明石海峡大橋の少し向こうに 「星野珈琲店」 の、看板が見えてきたわ。久しぶりに寄ってみない。お正月だから新しいメニューがあるかもしれないわ」

 最近は息子達もコロナの影響で、どこにも行っていないようなで誘ってみた。

「そうやなあ。家の近くまで来たし、コーヒーでも飲んでホッとしたいなあ」

 すぐに店に入ることにしたが、駐車場が空いているかどうか気になった。今日は垂水区にあるアウトレットの初売りの日だったため、反対車線の明石方面からの東行きは、かなり渋滞している様だった。ところが運良く一台分だけ空いているのが見えた。今回も 「斎藤一人さん」 の、おまじないを使わせてもらったお陰で駐車できた。

「星野珈琲店」 の、すぐ側は瀬戸内海なので、とても景色が良い。瀟洒な建物も女性客に人気が高い。ウインドウには美味しいそうなメニューが、豊富に並んでいた。

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 すぐに案内されたが、お正月でやはりお客さんで一杯だった。しかしながら、天井が高いので、静かな雰囲気を醸し出していた。

「さあ、何を頂こうかなあ」 

 と、私が独り言をつぶやいたとたん、息子が言った。

「注文はコーヒーに決まってると思うけれど…。ここは珈琲屋さんだよ。コーヒーじゃなくて何を飲もうと考えていたの?」

「あら、分かっているわ。コーヒーとメインの食事は別なのよ。メニューを見たら、どれもすごく美味しそうだから迷っているのよ」

「ああ、そうだったのか? それにしても沢山の軽食があり、この店に来て良かったわ」

 息子達もメニューを捜していたが、結局は好物のオムライスと 「星野オリジナル珈琲」 を、注文した。f:id:komatsuhiroko:20210117133145j:plain

「もっと、変ったものを選んだ方が楽しいのに…」

「僕の勝手だから、ほっておいてよ」

 私は 「織姫」 と、いうコーヒーと大きなスイーッツ」 を、注文した。

「お母さんはいつも目新しいものばかり注文して、失敗しているけど大丈夫なの?」

「だって、何事も失敗しないと成長しないものよ。コーヒー位は変ったものを挑戦した方が良いと思うわよ」

「そうかなあ、じゃあ、二杯目は 「織姫」 に、決めてみよう」

 と、言ったので他の人も 「織姫」 を、選んで飲んでいた。特に息子は気に入ったように見えた。

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後で別の店員さんに 「織姫」 の、評価を尋ねてみたところ、すごく美味しくて注文が多いとのこと。ああ、今回は正解で良かった。

 それから数日後、友人達とこのあいだの 「星野珈琲店」 へ、行く機会があった。私は友人達に二杯目を、紅茶にしたらと薦めてみることにした。メニューには 「オリジナル・フルーツティー」 と書いてあった。よく見ると紅茶に何種類かの果物が入っていかにも美味しそうだった。少し躊躇したが、この時も変わった味だけれど、珍しくて美味しいと賛同してくれたので良かった。

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 これを機会に、美味しい珈琲屋さんを探す趣味も、案外と面白いかもしれない。その時ふと、コーヒー好きだった亡き父を思い出した。父の自慢は何百件かある神戸中の喫茶店を、ほとんど制覇したことだった。母は父のコーヒー好きが大嫌いだったので、よくケンカしていた。自分だけ良い目をしているというのだ。

ある時、高校生になった私は、母に喫茶店の楽しさの話をしたが、全く聞く耳を持たなかった。母は反対に、生涯を一度たりとも喫茶店に行かなかったことを、自慢にしていた。つつましく真っすぐな性格だったのだろう。昔の女性はささやかな美徳で満足していたのだ。ああ、全く損な時代だったと思う。

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 そういえばあの頃、三人兄弟のうち私だけが父の味方だった。なぜか父のコーヒー好きが理解でき、父の子供の頃や、丁稚時代の冒険話も面白いと思っていた。だから幼い頃から小学低学年まで時々、母に内緒で父と喫茶店で、いつもミルクコーヒーやジュース類をご馳走してくれた。子供心にとても美味しかったことを覚えている。

母や兄弟に分かったら叱られるので、ずーっと長い間、父との喫茶店巡りは秘密にしていた。今も誰も知らないと思う。

 しかしながら、今となっては何もかも懐かしい…。思い出の一つ一つが、微笑ましいエピソードとして、私の頭のかたすみに残っている。

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2020/01/17 #98