小松弘子のブログ

やさしいエッセー

幻の「ウィンナーコーヒー」

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 一月初旬の日曜日の朝、起きるなりとても寒いと思った。折角の休日なのに、コロナの影響と寒さで、今日も一日中 「テレビの番」 で終わるのかしら?

 年末以降、近畿地方も昨年より冬型の日が多かった。テレビによると日本列島全体が、強い寒気団に覆われているらしい。そのせいで日本海側では、いわゆる 「どか雪」 に見舞われたのだ。

 「どか雪」 は、道路の大渋滞や雪下ろしによる人災など、悲惨な爪痕を容赦なく残した。連日の大雪のニュースを見て、思わず身震いをした。

 この時期は本来なら、積雪がこの上なく美しい筈の北国だ。けれども以前のような綺麗な印象はなく、苛酷で恐いだけの映像だった。

「わあ、北国の人達は、この先もずっと大変な生活が続くのね。本当に気の毒なことね。何とかして助けてあげたいわね…。私達も家の中で缶詰ね。ああーああ、本当に一日が長くなりそうで退屈だわね…」

 と、二階から起きてきた息子に気づき呟いた。

「お母さん、おはよう。今日も寒いし、コロナ禍やし、どこにも行けなくても仕方がないやん」

 皆が我慢しているのだから、辛抱するのが当然だと、言っているように聞えた。

「それはその通りだけれど、連日ジーッと座っているのも辛いものよ。お買い物だけでも出かけてみたいわ」

 その時、私の軽快な音楽の携帯電話が鳴った。

「もしもし、お母さん。元気にしている? もしさあ、

どこかへ出かける用事がなったら、皆で家に寄らしてもらっても良いかな?」

 次男のいつになく明るい声だった。

「おはよう。朝早い電話だけれど、何か変ったことでもあったの?」

 この時、去年末に聞いた孫達のつぶやきを、ふと思い出した。休日になるとお父さんの朝寝坊で、世話が焼けるというのだ。まだ子供の頃の朝寝坊が続いていたのだ。

「イヤー、別に変わったことはないよ。ああ、そうそう、このあいだお母さんにもらった 「ぜんざい」 美味しかったよ。有難う。その容器を返そうと思ってね」

 次男から朝早く、かかってくる電話は珍しい。今日はよほど暇なのだろう? それともいたずら盛りの子供達に、無理やり起こされたのか? 

「こちらも暇だから、モーニングコーヒーでもどう? 近くのコメダ珈琲店に珍しいコーヒーがあるので行きましょう」

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 私は喫茶店へ行く寄りも、二人の孫達に会えるのが嬉しかった。去年一年間はコロナ禍と、孫達の塾やお稽古が多くなり、次男家族とあまり会話をしていなかった。

 今年は顔を見るのは、お正月から二回目だ。

「おばあちゃん、おはよう」

 玄関口から元気な声がした。つかつかと台所に現れたのは、まだ小学生の孫達だった。二人はニッコリ挨拶をしてから、走ってデズニーチャンネルが見れる部屋に行った。テレビの前だけはいつもおとなしくしている。子供達はそれだけを楽しみにしているのかも…。それでも来てくれるだけで、今の私は充分幸せなのだ。

「お義母さん、朝からお邪魔してすみません。途中で 「コメダ珈琲店」 の前を通ったのだけれど、いつもこんなに混んでいるのですか。本店は確か名古屋市と聞いていますが、最近は近畿地方でも、良く見かけるようになりましたね」

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 お嫁さんの情報源には、いつも驚かされている。

「そうなのよ。ここも開店してから七年位になるけれど、ほとんど年中お客さんで一杯みたいよ。お買い物の時とか、お稽古へ行く途中で、この店を通るのだけれど、いつも満車みたいよ。そうそう、友人が薦めてくれた名古屋店名物の 「小豆コーヒー」 も、美味しいわよ。半信半疑だったけれど、本当にコーヒーの中に小豆が入っていたので、ビックリしたわよ」

 皆がそろったので、すぐに喫茶店に入った。

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「さあーって、今日はどれを飲もうかなあ。アッツ、変わったコーヒーがあるわ。初めてやから、これに決めた! 久しぶりのウインナーコーヒーや」

 メニューを見た瞬間、お嫁さんが思わず笑い転げた。

「エエッツ、マジでこれを飲むつもりなの? また変な癖が始まったわ。本当に大丈夫?」 

 私は、お嫁さんの半分あきれた顔を見て、

「どれどれ、「ウインナーコーヒー」 ね。 ウーン、確か五十年位前によく流行っていたわ。クリームホイップが入った珈琲でしょ。特別に珍しくもなく、変わってもないと思うけれど…」

 と、次男の持っていたメニューを覗き込んだ。

「アッ、それとは違う、違うよ。ほら、その横のコーヒーカップの中をよく見てよ」 

「エエッツ、嘘でしょう!」 

な、なんとウインナーソーセージが一本、堂々とカップに入っているではないか! 

「あり得ない! 夢を見ているみたい」

 まったく信じられないメニューを考えつく人がいるものだ。ユーモアたっぷりというか、ダジャレというか、私もしばらく笑いが止まらなかった。

「ああーああー、アホクサ!」 

 でも、話のネタにはなりそうだ。どんな味がするのだろう? ちょっと面白くなりそうだ。興味津々だ。

 ところが結局のところ 「ウインナーコーヒー」 は、いつまで待ってもテーブルに乗らなかった。遅いなあ、 どうなったのかしら?

 次々にメニューのコーヒー類が運ばれたが、どうも 「ウインナーコーヒー」 は、見当たらなかった。アレッ、可笑しいなあ? 次男に聞くと 「ハチミツ入り何とかコーヒー」 を、注文したという。

 やはり、挑戦するにはハードルが高すぎたのだろうか? チョットだけ本物の 「ウインナーコーヒー」 を、期待していたのに残念だったなあ…。

 今度は絶対に皆より先に 「コメダ珈琲店のウインナーコーヒー」 を、飲んでみたいと考えている。

 

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 追伸、今週二度、このお店で念願の 「ウインナーコーヒー」 を注文した。しかしながら飲むことができなかった。店員さんにしつこく尋ねたが、今までお客さんからの注文もなく、元々メニューにも無いというのだった。 

 突然に 「奈落の底」 に突き落とされた心境だった。憧れの 「ウインナーコーヒー」 から一転して 「幻のウインナーコーヒー」 に、変わってしまった。どう考えてみても不思議な現象というか、納得できない話だった。

 早速、帰宅した長男に、この話の成り行きを聞いてもらった。ところが返答は意外だった。

「お母さん、あの日の朝は寝不足気味だと言っていたよ。だからきっと 「まぼろし」 を、見ていたんじゃない。それとも認知症の始まりかな?」

と、いつにない冷静な対応だったので驚いた。

「あらっ、よく言うわね。絶対に夢なんかじゃないわ」

「じゃあ、一度お嫁さんに電話をして、確かめてみたらハッキリすると思うよ」 

 ああ、なんということかしら。長男にも信用してもらえなんて。こんな話など、めったに人に言えないでしょうに…。最後の望みは次男にかかっている!

 今日スーパーで買物をしていると、ふと 「謎のウインナーソーセージ」 が、目に入った。ウーンどうしたものか? ソーセージが恨めしい。

一日も早く 「幻のウインナーコーヒー」 の、謎を解明したいものだ!

 

 

2020/01/27 #99