小松弘子のブログ

やさしいエッセー

信州の旅 ㈠

元号が令和になって、初めての大型連休を迎えた。四月二十九日から三日間は雨模様だったが、後半の五月二日以降は全国的に晴天が続くと知った。せっかくの休暇なので、家族と一緒に旅に出たいと思い、長男たちに旅の計画を持ちかけた。

行き先を相談した結果、まだ旅行していない長野県の善光寺辺りに絞った。長野県の民宿到着への所要時間は、車でおおよそ十時間かかるらしい。ゴールデンウイーク中なので運が悪ければ渋滞に巻き込まれ、それ以上になる恐れもある。皆は遠距離の旅になるので、少し慎重になっていたが、私は旅の実現ばかりを祈っていた。二時間くらい思案したが、何とか善光寺だけでも行こう、と決めてくれたのでホッとした。

長男は東名高速道路を利用するより、山陰地方から越前海岸を走り、新潟県から信州方面に入った方が早いと考えているようだった。出発日はのんびりと日本海の海岸線を走り、長野県ではりんご畑を散策する予定になった。二日目にメインの善光寺にお参りして、三日目は上高地を訪れることにした。

「だいたいの計画はできたが、さて信州方面にまだ宿泊できる施設が、残っているだろうか?」

 そのことが一番気にかかった。前日の朝、近くの旅行案内所二軒を当たったが、善光寺近辺では空きの宿が無かった。

「もしかして小さなところだと、一軒ぐらい残っているかもね」

 と言って息子はスマホで何軒か探した。

「ああ、駄目かもしれない。この時期はなかなか良い宿が見つからないな」

「じゃあ、民宿でもいいのじゃない。旅を諦めるよりずっとましよ」

 とすかさず私が言った。 

 宿を決めるのにスマホで約一時間かかったが、なんとか二日分の民宿が見つかり良かった。やはり昨年の同時期よりも、どこも旅行客で一杯だった。 

 次の朝、自宅を午前五時半に出発。朝早く起きたので眠くて仕方なかったが、皆に悪いと思い必死で堪えた。

 出発から六時間くらいで、富山県翡翠海岸という海辺についた。名前の言われのごとく「ヒスイ」が砂に混ざっている、という話声が聞こえた。

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翡翠海岸

 私は眠くて車の中でうとうとしていたが、「ヒスイ」の声にパッと目が覚めた。

「本当にこの海岸にヒスイが摂れるの?」

 私が思わず大きな声を出したので、

「女性はこの件になるとゲンキンやなあ、ビックリするわ」

 友人があきれ顔で言った。

 

「だって、それって珍しいことなのよ。さっそくヒスイを見つけに行きましょう」

 私はサッサと車を降りて、広々とした海を見渡した。前日の雨上がりのお陰で、空が真っ青だった。空気が爽やかで、とても良い眺めだった。靴だと歩きにくいと思ったが、砂浜を駆け抜けた。

 波際まで一気に走ったので案の定、靴に砂と水が入ってしまった。

「車の中に砂を持ち込まないでよ」

 誰かが言ったが、

「大丈夫よ、気を付けて乗るからね」

 と言ったが、靴の中は砂が一杯だった。天気が良いからすぐ乾くし、どうでも良いことに聞えた。

 広い砂浜には家族ずれなど、三十人位の観光客が思い思いにヒスイを探しているように見えた。どの石がヒスイなのかはわからなかったが、それらしきものを二十個ビニール袋に詰めた。

 近くで砂を掘っていた人が、

「案内所で砂の鑑定をしてくれるそうよ。ヒスイだったらいいのにね」

 と親切に教えてくれたので早速持っていった。

「ウーン。残念ながら全部ヒスイと違うね」

「あら、そうなの。でも旅の思い出に持って帰るわね」

 係の人は、ヒスイの見本を見せて説明してくれた。

つづく