小松弘子のブログ

やさしいエッセー

旅の途中で あれ これ クロアチア スロベニア編

 真夏の七月二十一日、関西空港からクロアチアへ長男と二人で旅行に出かけた。六十歳で海外旅行を体験してから数回目のヨーロッパの旅である。

 いつも息子の意思で行く先が決められる。

もともと海外旅行は苦手だったので、クロアチアがどこにあるのか頭になかった。クロアチアの何が名物なのか、どの地域が見どころなのか全く気に留めずに、とうとう出発の日を迎えてしまった。

 旅が楽しいと思う反面、暑いさなか十四年前から飼っている犬を家に置いていかなければならず、正直喜んでばかりいられなかった。結局、二匹の犬をペットホテルが併設している近くの動物病院に預けることにした。

やはり帰るまでは二匹の犬のことが気掛かりだった。だが、迎えに行ったら二匹とも元気でいてくれたので安心した。お世話になった病院の先生方には本当にありがとうと心から感謝したい。

 クロアチアの旅は、まず長時間の飛行時間に耐えなければいけないことから始まった。乗り換え時間を含めると十三時間を超える。エコノミー症候群にならないように座席から何度も立ち上がったり、熱中症にかからないように水分を補給したり、いろんな制約もあるので実際大変だった。

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「あー、じっと座っているのも辛いわね」

横に座っている長男に少し皮肉を込めて言ってしまった。

「せっかく旅行の費用も負担したのに、それはないやろ」

その通りだが年を取るとわがままになり、ついつい愚痴が多くなる。

「あと何時間で乗り継ぎのヘルシンキ空港に到着するの?」

「今さっき日本を離陸したばっかりやろ」

ムッとしたような顔で息子が睨んだ。

その時、突然、年配の男性の柔らかい声が耳に入った

「あっ、どーも。長時間の飛行機だから大変ですね」

私達の座席の右隣りからだった。

「今日は、どこの国へ行かれます?」

「あのー、息子とクロアチアへ行くのですが」

「僕はバルト三国へね。一人旅なんですよ。

いつもは家内と一緒なんですが、妻の母親の介護でいけなくてね」

「まあ、そうなんですか。ちょっと淋しいですね」

見知らぬ人と思いながらも突然の会話に思わず相槌を打ってしまったが、まんざら悪い印象もなく、ゆったりした紳士的な感じの人だった。息子にも軽く会釈をして、たわいもない会話を始めた。それを見て私も何となく安心して一緒に会話を続けた。

「僕もね、バルト三国は初めてなんですが、

すごく綺麗な所らしいですよ」

「僕も一度は行ってみたいと思っているんですよ。いろいろ教えて下さいね」

 今度は息子の方が話に乗ってきた。

 それから四時間あまり三人で世界各国の話に花を咲かせた。その人は定年後十年間で二十か国以上を訪れたらしい。羨ましい限りだ。しかしそのうちに、話題が日本に残してきた自分の奥さんの性格の話に変わっていた。奥さんと私の血液型が同じで性格まで似ているというのだ。一般的に血液型によって本人の性格が当ると言われているが、果たしてどんなものなのか?

 そろそろ疲れてきたので数時間睡眠をとった。日本人同士楽しく会話ができ、飛行時間の長さも気にならないで済んだ。

「じゃー、お互いに良い旅を」

「さようなら、お元気でね」

気持ち良く別れて、それぞれの国に向かって乗り継ぎの飛行機に乗り込んだ。

 旅行の日程表によると、アドリア海を挟んだイタリア半島の対岸のバルカン半島を北から南へ旅する。

ようやくスロベニアの空港に着き、その日はリブリャーナで一泊。翌日『アルプスの瞳』と称されるブレッド湖を観光。

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ブレッド湖スロベニア

午後からはヨーロッパ最大級のポストイナ鍾乳洞をトロッコに乗り見学した。洞窟内は八度で外の暑さとは打って変わって涼しく、ホッとした。

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ポストイナ鍾乳洞(スロベニア

とにかく夏なのでヨーロッパとはいえ暑いし、私はみんなについてゆくだけで精いっぱいだ。足は連日の苛酷な歩きで痛いし、もう海外旅行は無理だろうと弱気になったが、旅の後半に訪れるクロアチアアドリア海が残っているので、どうにか頑張ることにした。

 四日目は今回の旅のハイライトの一つであるプリトビッチェ湖群国立公園の観光だ。ここも世界遺産に登録されている。十六の湖と九十二もの滝が織りなす素晴らしい景観をウォーキングや遊覧船で廻る。湖面はエメラルドグリーンに輝き白糸のような滝が無数に流れる。湖と湖とをつなぐ小川のせせらぎが何とも心地よく乾いた心を潤わせてくれた。

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プリトヴィッチェ湖群国立公園(クロアチア共和国

その次の日は紺碧に輝くアドリア海に面した町々を訪れた。リゾート地ともなっているところが多く、港には世界各国からセレブと呼ばれる大金持ちのクルーズ船が多く泊まっていた。どの町も世界遺産で、歴史があり特徴があってとても美しかった。

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ロヴィニ(クロアチア共和国

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トロギールクロアチア共和国


なによりも連日抜けるような青空が続き、一層そう思わせたかもしれない。なぜか日本の青空とは違う感じがした。湿気もないカラッとした陽気が、毎日の暑さを幾分和らげてくれているようだった。

毎日朝五時ごろに友人に電話を入れた。時差の関係でお昼になる時間だ。日本は連日湿気が多く、梅雨がまだ続いていて蒸し暑いようだった。

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オパティア泊(クロアチア共和国

ここで食事の話をしよう。朝はバイキング形式で、基本パンとジュースやコーヒー、スクランブルエッグとベーコンなどである。ヨーグルトや果物もあったが、さすがに毎日だと飽きてくる。昼や夕食は海が近いこともあって魚料理が多かった。御多分に漏れずその土地の名物料理も出た。以前からヨーロッパの旅で食事に必ず出されるパンは美味しかったが、今回は硬くてパサパサして美味しくなかった。それぞれの国によって違うみたいだ。なぜかいつも感じるのは、三食の中では朝食が一番おいしい。

今回は国境越えを三回も行った。島国日本では経験できないことだが、その時はさすがに緊張感が走る。国境付近は撮影が禁止されており、カメラを鞄に締まった。

次の日、ボスニア・ヘルツェゴビナモスタルを訪れ、そこに架かるスタリ・モスト(古い橋)を渡った。

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スタリ・モスト(古い橋)ボスニアヘルツェゴビナ モスタールのアーチ橋

この美しい橋は一九九二年八月二十一日に起こった旧ユーゴスラビア戦争で一度は破壊され、大勢の人が殺された事実があった。小さな町の真ん中を流れる川に架かる橋を隔ててそれぞれの民族が殺し合いをしたと思うと胸がつまる思いだった。この頃日本はバブルの絶頂期であった。この悲惨な状況を思った時、世界の人々のことも考えなければならないと強く感じた。

観光が終わりバスへ戻ろうとした頃、辺りが急に暗くなり雷が鳴りバケツをひっくり返したような雨が一時間程続いた。

 旅すがらその国の歴史や文化の話はすごく楽しく勉強になるが、人間誰しもトイレには行きたくなる。ヨーロッパでは一般的にトイレは有料だ。それと同じく飲み水もお金がかかる。しかしどちらも我慢はできない。ここが日本と違って特に厄介だ。

 泊まるホテルはその時々でグレードが変わる。安いツアーなので一概には言えないが、運が良ければ広く綺麗な部屋だったり眺めが良かったりする。逆もしかりだ。だが初めに直面するのが部屋の鍵を開ける時だ。なかなか難しい時がある。そして最大の問題が水回りだ。お風呂とトイレが同じなのは承知だが、シャワーの切り替えが見事にバラバラだ。バスタブも仕切りが半分もなく水が外へ飛び散りとても使いづらい。勿論ウォッシュレットはない。その点で日本は恵まれている。これも文化の違いかとは思うが何とか『改善』されないものかといつも感じる。

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オパティアで泊ったホテル

逆に日本が改善してほしいこと思うことがある。ヨーロッパの道路は通行が実にスムーズにできる。信号機は大都市以外ほとんどない。交差点は、ランドアバウトと呼ばれる環状交差点で信号機は必要ないし、左折レーンも多くありそのまま車は止まることなく前へ進める。人の住む町とそれ以外の田畑などが区別されていて、道路を横断する人も都市部に限られて少ない。多くの街では、当たり前のように電線が地中化され電柱もない。これも景観が良い理由だ。街並みも統一感があり美しい。

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電柱電線のないきれいな町並み

さて、いよいよ最終日は『アドリア海の真珠』と呼ばれている世界遺産ドブロブニクを観光する。楽しみだし嬉しいけれども、九日間という長旅の終盤に入り名残り惜しい気持ちになった。

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ドブロブニククロアチア共和国

 朝のアドリア海はとても素晴らしく美しい。今日も突き抜けるような青空だ。まずロープウェイに乗ってドブロブニク旧市街が見渡せるビューポイントへ行った。そこからの眺めはまさに絶景で、紺碧に輝くアドリア海に突き出たオレンジ色の屋根が艶なる街並みは、写真で見たそのままの美しさだったよくあるカレンダーや雑誌で見るものはプロが撮ったベストショットだが、まさにその光景が目の前に広がっており感嘆した。そのあと城壁に囲まれた旧市街を散策した。

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この街は城壁を一周することができる。自由時間を使って、街と海を城壁の上から眺めながら歩いた。また街にある小さな港からクルージングで海に出て、コバルトブルーの海と街並みを見ることにした。

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さすがに観光地として、どこを歩いても絵になっている。夕暮れ時の浜辺もリゾートを楽しめるように、いろいろと工夫がきめ細かくされ、サービス精神が発揮されている。観光客が日々満足して過ごせるようにあれこれと整備されているのが感じられた。

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日本人として外国人の好みも知っておく必要があると思った。思わず日本の観光地と比べてしまった。当たり前だが全く違った風習があり、どこをとっても、とにかく洗練されて居心地が思いのほか良かった。

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ドブロブニク泊 ホテルのビーチの夕景

日本の観光に携わる人は世界中を回り、目をもっと肥やし、日本の伝統を上手くアピールし、又、古い歴史ある建造物だけでなく、日本らしさの残る土地柄の都市も大いに世界に紹介した方がいい。日本の若い世代の目を広く世界中に向けるように考えたら素晴らしい発見に出会えるかもしれない。

 まだまだ世界のことは複雑で知らないことばかりだが、いつの日か機会があれば、どこかの国へ旅に出たいものだ。歌の作詞も兼ねて……。

 *下のYouTubeに公開中の歌からドブログニクの美しい映像が観られます。


♪「アドリア海の女」 唄:小松弘子 神戸在住シンガーソングライター