小松弘子のブログ

やさしいエッセー

兵庫県北部を自由旅

日本の秋は一年を通しても、素晴らしい季節の一つである。なおさら休日ともなると、大抵の人はどこかに旅をしたくなるほど、場所を選ばずとも、旅する価値があると思う。同時に季節ごとの、山や海の自然の懐が恋しなったりする。

実際のところ、紅葉した一本の木を見ても、胸一杯に幸せを感じられるのだ。何か大切な宝物を発見した時のような、不思議な感情さえ湧いてくる

 さあ、今日も晴天に恵まれ、絶好の行楽日よりだ。どこでも良いから、旅に出かけてみよう。一日一日を有意義に生きることは、自分にとって、かけがいのない大切な日になるだろうから…。

 と言って日帰り旅行なので、あまり遠くには行けない。身近な兵庫県北部を、もう一度再発見してみたくなった。

 そうだ。兵庫県北部を自由に散策して、思いつくまま車で走ってみようか? いつものように息子達に相談すると、

「いいよ。良い天気だし、のんびりと思いつくまま兵庫県北部を自由に旅してみよう」

 と、賛成してくれた。

 そういえば十年くらい前から、日本海側の 「山陰ジオパーク近辺」 の風景が、たびたびテレビなどで紹介されている。その度にいつか訪れたいと思っていたので、さっそく地図帳や栞を息子に見せた。

「ウーン、まだ行っていないところも沢山あるなあ。思い切って今回は日本海辺りに決めてみようか?」

 と、すぐ話が決まった。

 山陽道をメインにして走り、 「竹野海岸」 をめざして出発した。途中から地道でのんびりと走るのも、なかなか趣があってよかった。兵庫県は日本で面積が二番目に広い。以前に何回か同じような景色を見たものだが、農地や畑がまだまだ残されている。

今は稲の収穫が盛んで、豊作も間違いないように感じた。ふと街中の道路沿いに 「日本一のたい焼き」 の看板が目に入った。

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「まあ、「日本一美味しい!」 だって! 面白い看板だわね。全国どこでも 「たい焼き」 は売っているけれど、本当かしら?」

 丁度、皆も食べたいというので店に入った。

「こんにちは、たい焼きを三個お願いします」 

 少し恥ずかしかったが、皆の希望だから仕方ない。 

「有難うございます。小豆とクリーム、チョコもありますよ。大変おいしいですよ。日本一ですから」

 アルバイトの女学生が三人程、店番をしていた。

「はあ、色々食べてみたいけれど、全部小豆にします」

 といって一個が百八十円の 「たい焼き」 を、小袋に入れてくれた。

 早速車の中で試食してみた。

「なかなかに美味しいよ」

 息子達が言ったので、私も半分食べてみた。

「そうかなあ? 美味しいけれど普通だと思うわ。形も特別に変わってもないし…」

 と、言うと、つかさず皆が口を挟んだ。

「まあ、まあ、そんなことを言ったら罰が当たるよ。食べられるだけで感謝しないとね。特に 「たい焼き」 は、この味で上等ですよ」

「そうやねえ、この程度だったら美味しい方かな?」

 と、承諾したが、遠くまで来たのだから、もっと他に名物があれば挑戦したい。

 以前にもこの時と同じようなことがあった。 各地自慢の 「日本一のラーメン」 とか、「日本一の鰻」 、「日本一の牛肉」 など…。数えれば本当にキリがない。

 旅をしていれば、いろいろな珍しいものを探して試食したくなる。ズバリ言って、大目に見ても正解は半分くらいだった。でも今になって思えば、その一つ一つが楽しい思い出になった。

 出発してからもう三時間が経った。日本海はまだ見えてこない。山や谷をいくつも乗り超えたが、目的地の竹野海岸はどこにあるのか? 

 そうしているうちに、山中の道から突然に 「但馬空港」 行きの看板が出てきた。

「へえー、こんな山の上に空港があるらしいよ。ここまで来たのだから、寄ってみようよ」

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 偶然に現れた 「但馬空港」 が、物珍しかったので見学することにした。空港までの道のりは細い山道が続いた。一体、あと何分くらいで辿り着くのか気掛かりだった。

 しかしながら、思ったより早くそれらしい設備が見えたので、ひと安心した。到着してすぐに飛行場を探した。第一印象はこじんまりした空間に佇んだ空港だった。玄関前に小さな古い機種の飛行機が、一機展示しているだけであった。

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 さて、どこに本物の飛行機があるのか、その近辺を探した。しかしながら、待機している飛行機は一機もなかったのだ。

「エッエッエー、飛行場に飛行機が一台も待機していないではないか!」 

 私は、小さなロビーに入り、係の人に聞いてみた。

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「今の時間はね、たまたま一台も待機してないのですよ。もう何時間か待たれると見られますよ」

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 その返事に私達はあっけにとられた。コロナ禍のせいもあり、どこの地方空港も同じ状態なのだろうか? 淋しささえ覚えた。でも地元の 「但馬空港

の場所が分かって良かったと思った。いつかこの空港を利用できたら、一度は乗ってみたいものだ。ここから神戸空港までの景色を、この目で見たいと思った。

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 しばらくして竹野海岸を散策した。海岸に着くと砂浜と水がとても綺麗だった。秋独特の、真っ青な空と海が眩しかった。

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「山陰ジオパークは季節を問わず、いつ来ても素晴らしい自然があって、本当に良かったわ。もしも来夏に孫達と一緒に来られたら、とても喜んでもらえそうな海岸ね」

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 海岸線の素敵な景色を十分に堪能できた。そろそろ夕方近くになったので、香美町を通り家路に向かうことにした。

途中で村岡町の 「道の駅」 と、「村岡ファーム」 に立ち寄った。ここはあの但馬牛が安価で気軽に美味しく食べられるらしい。夕食時間帯なので混雑していたが、「焼肉定食」 を食べることにした。 

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 息子の勧めの店だったが、安くて美味しかった。やはり美味しいものにめぐり合えると幸せだ。

「食欲の秋」 は、まさしくここの店で堪能できた。

 

2020/11/12 #87