小松弘子のブログ

やさしいエッセー

和歌山の柿はいかが

 今秋もいよいよ 「富有柿」 の、美味しい時期がやって来た。 口にした瞬間のカリカリとした触感がたまらない。外国には 「柿」 の生産が少ないらしくて、独特の味と香りを敏感に反応するのは、どうも日本人の特権かもしれない。

 朝すぐに二度目の、和歌山県名産の 「柿」 を買いに行きたいと思った。二週間位前に買った分が無くなったので、もう一度だけ食べたくなったからだ。

 十一月中旬ともなると、先月より柿の収穫最盛期を迎え、柿の種類がぐんと豊富になり、他の野菜や果物も大量に売っている筈である。 f:id:komatsuhiroko:20201123185100j:plain

 この時期を逃すと、年内に和歌山に行くチャンスがないかもしれない。とにかく息子に連れて行ってもらわないと、自分では無理である。思い切って相談してみた。

「あのう、もう一度 「柿」 を買いに、和歌山県まで行きたいのだけれど、都合はつくかしら…」

「ウーン、どうしようかなあ。映画も見たいし…」

 息子の顔色を伺いながら、返事を待った。

「いいよ。最近に気がついたけれど、柿はポリフェノールが多くて、とにかく体に良い成分が豊富らしいのだ。このあいだの柿はとても甘くて、美味しかったからもう一度買いに行こうかな」

 案外すんなりと決めてくれたのでホッとした。息子は 「柿」 に無頓着で、一昨年まで食わず嫌いだった。毎年のように私が 「柿」 の良さを、しつこく薦めるので、最初は仕方なく食べていたものだ。

 その結果なのかどうかわからないが、てきめんに風邪をひかなくなった。また だんだんと、「柿」 の美味しさも分かってきたようだ。息子曰く、なにより以前よりも健康になったと喜んでいる。自分でもスマホなどで 「柿」 に関する情報も調べているみたいだ。 

 ということで、息子達と阪神高速湾岸線から、京奈和自動車道を乗り継ぎ、「かつらぎ西」 にある万葉の郷の 「道の駅」 を、目指して出発することになった。

 ここは和歌山県の紀ノ川沿いにあり、近辺に何軒もの販売店が点在している。飽きもせず今までに二十回位訪れたと思う。主に春と秋に限っているのは、すぐ近くに 真言宗総本山 「高野山」 があり、お参りもかねているからである。

 さて、いつも道中途中の泉佐野市のインターで、休憩するのが癖になり、名物の水ナスのお漬物を買ったりした。今日は秋も終盤なので、好物の水ナスのお漬物は見当たらなかった。もう、季節はすっかり秋になった。

 紀ノ川が近くなるにつれ、山々は紅葉の色に包まれていた。ふと見上げた空は高く、とても空気が美味しく感じられた。ああ、季節の移り変わりは美しいが、何やら寂しくもある。f:id:komatsuhiroko:20201123184938j:plain

 いよいよ今日の目的地 「道の駅」 に到着した。何やらいつもより買い物客の車が多かった。

「あれっー。いつもより早い時間帯に来たのに、随分とお店が混雑しているわ。去年みたいに 「柿」 が、去年のように売り切れていたらまずいから、皆より先に買い物に行くわね」

 私は急いで店に入り売り場を覗いた。

「お目当ての 「富有柿」 は残っているかしら?」

 店員さんに聞くと、今日は特別に商品をドンドン追加しているので、大丈夫だと答えてくれた。それでもどの産物も飛ぶように売れていた。少し心配になったので、買い物籠三個にいろんな特産物を一杯にした。やれやれ、ひと安心だ。

 家路について 「柿」 と 「みかん」を、仏前に供えた。 夕食後、皆で 「柿」 を、試食した。

「今回のお味はどうですか?」

「前回よりもとても美味しいよ」

 今年の天候は、果物にとって最高に恵まれたらしい。

 

2020/11/23 #88