小松弘子のブログ

やさしいエッセー

ラテンの歌に挑戦

 二月からシャンソンの 「アドーロ」という歌の練習を続けている。挑戦してから一カ月半になる。

今までは日本の歌を多く歌ってきた。ある時、体操仲間のYさんから、この曲を紹介されたのをきっかけに、ラテン系を練習するようになった。

アルゼンチン出身の歌手スサーナが日本語で歌っている “アドーロ” は、もともとスペイン語で歌われている曲らしいが聞き覚えがなかった。さて、どんな歌だろうか? 疑問はあったが、いろんな分野の歌も歌えるようになりたい。本音は珍しい歌に挑戦したかっただけかもしれない。そのうちにだんだんと五月の発表会に歌いたい、とまで思うようになった。

それでいつも通っている音楽の先生に、この “アドーロ” の歌を練習してみたいと言った。

「ああ、いいですよ。一九七〇年代にヒットしたシャンソンの曲ですよ。三か月ぐらい練習すれば、何とか歌えるようになるでしょう」 

との返事だったので少しほっとした。この歌に関して何も知らないので、いろいろなことを先生に尋ねてみた。シャンソンの歌にはいろいろ種類があり、歌の表現も難しいらしい。本当に五月の発表会までに、上手く歌えるようになるのだろうか?

初めての歌で不安だが、シャンソンの歌に挑戦する楽しみが大きかった。

「ねえ、小松さん。「アドーロ」 という歌を知っている? 何度かカラオケで聴いたのだけれど、とても素晴らしくて気に入っているのよ。あなたに合う曲だと思うのよ。是非機会があったらカラオケで聴いてみて」 

「Yさん、いつも良い歌を教えてくれて有難う。でも、そんなに好きな歌だったら、あなたが練習した方がいいと思うけれど」

「いやー。好きな曲だけれど結局は諦めたのよ。絶対にあなたに歌ってもらいたいの。五月の発表会を観に行くから、是非歌って聴かせてね」

「でもねえ、ぜんぜん知らない曲だし。まあ考えておくわ」

 その時は自分が歌うのかどうかも迷っていた。けれども体操教室でYさんに会う度に、この歌を薦められた。二週間たったある日、思い切ってカラオケ店で スサーナの “アドーロ” を聴くことにした。

「ボロロン、ボロロン」 ピアノが奏でる曲は、物憂げで寂しい。が、だんだんと情熱的なものになってきた。

なるほど、歌を長くやっているYさんが薦めるだけあり、とても良い曲で気に入った。

「よーし、頑張って歌えるようになろう」

 早速カラオケ店に行き、二回ほど練習したが難しくて歌えなかった。少しくらい歌えそうに思ったのに、ぜんぜん駄目だった。

 やっぱり歌の先生に相談してからにしよう。ということで今、猛練習のために教室に通っているのだが、思うように上達していない。そんなある時教室で、

「あのー、歌詞が日本語訳になっているので、歌いにくいですね。特に最後の方は難しい……」

 先生にそう言うと、

「そうですね。確かに日本語だと歌いにくいですね。最後の部分だけはスペイン語の方で行きましょう」

 と言って二回ほど丁寧に見本を歌ってくれたが、私はうまくいかなかった。

 あくる日、ラテン系の歌の得意な歌手のことを思い出し、Yさんとその人がやっているお店に行った。

「すみませんが、あなたに歌ってほしい曲があります。“アドーロ” ですが、お願いできますか?」

「やあ、その曲は長く歌っていましたよ。僕の持ち歌なのです。話は聞きましたが、あなたが言うように日本語で歌う方が難しいですね」

 と言ってすぐに歌ってくれた。さすがに聞きほれるぐらい上手かった。

「次回はスペイン語で歌いたいと思いますよ。日本語より歌いやすいのでね」

 歌手の歌が聴けて二人とも感激した。一時はこの歌を諦めかけたが、三か月の練習をめどにもう一度頑張ろうと思った。