小松弘子のブログ

やさしいエッセー

ネットで格言を聞く

ある日パソコンの画面から、ふと今まで気付かなかった面白そうな見出しが目に入った。

 ユーチューブに目をやると、「神様の有り難いお告げ」 の題が沢山並んでいた。

「へえー、パソコンでこんな珍しい情報も提供するのだ」

 私は、「神様の話」の内容が知りたくなった。思い切って画面を見ることにした。

「お金持ちになれる話」 「幸福をつかめる話」 「誰にでもある人生の悩みの解決法」 など、無数にあるらしいのだ。時計を見ると午後四時になっていた。

そろそろ夕飯の支度があり、何件かに絞った。とりあえず自分の今年の運勢を上昇させようと考えた。

「開運」 に関する話を選んだ。人には振動数があり、振動数をあげるとツキが廻ってくるというのだ。また物に感謝すること、徳をつむこと、執着することなど。どれも当たり前の話だったが、今までその気持ちを忘れていたことに気がついた。見終わるのに一時間以上かかったが、特に日常生活で心得なければいけない内容が多かった。

 この方のお喋りは楽しくて、とにかく面白かった。家でリラックスして聴けるのが良かったし、いろいろ為になる話が素晴らしいと感じた。その他にも興味が湧きそうな多数の続編が紹介されていた。

 日々の暮らしの楽しみが、一つ増えた気持ちになった。見終わったその日は幸せをもらい、満足だった

もっと続編を見たかったが、夕方になり仕方なくパソコンから離れた。

「神様の言葉を、私達に伝える」 精神面の話だから本当は難しい内容だが、この方の声としゃべり方は凄い説得力がある。それでいて誰にでも理解しやすい言い回しだ。ますますこの手の話に夢中になりそうだった。今日の話は全部素直に聞けたし、本当に良い内容で心が洗われたと思った。

夕食の準備をしながら、ふと疑問が走った。

「神様の話」。もっともだけれど良い話を無償で提供するなんてありえない? と思いながらも快い気持ちになったのは事実だ。

次の日、仕事から帰ってきた息子に言った。

「今日もパソコンで神様の話を聞いたのよ。あなたも一度だけでも検索したら? 絶対に役に立つから」

「お母さんは単純で、すぐに何でも信用する癖があるから、ちょっとだけ心配やなあ」

「いーえ。この話は本当に良い内容が沢山あるので、きっとあなたに役立つ情報をくれるはずよ」

「まあ、その話にあまりのめり込まないように。上手いことを言って、何か高額な物を買わされそうやな。気を付けてよ」

 息子はあくまでも話に乗ってこなかった。あれから一カ月なるが、息子はパソコンを開いていないようだ。

 私も忙しくなり最近は暇な時だけ、「有り難いお話」 を聞いているが、どれもまともな良い話にめぐり合っている。こんなにも良いことは誰かに教えてあげたい。自分だけ知るのはもったいない。 

 ところがそれから二週間経ったある日、そんな話を体操教室でしていたら、そのうちの一人が言った。

「あなたから聞いてパソコンで見たわよ。本当に良いお話で感動したわ。でもね、このあいだ用があってある駅に行ったの。そしたらその人がかかわっているらしい例のお店を見つけたのよ。やせ薬などを売っていたわ」

 その言葉に返事もできなかった。まさか 「やせ薬」 を扱っているとは想像していなかったので、正直なところ驚いた。商売が悪いわけではないが、人は自分勝手なイメージによって、夢を膨らませることがある。タダより怖いものはないではないが、少し気を付けなければならないと思った。

今回、パソコンで随分の幸せをもらった。けれども本当の幸せは、そう簡単に手に入らないものだと悟った。