小松弘子のブログ

やさしいエッセー

チャリティーコンサートを見て

 男性演歌歌手Aさんのコンサートが、日曜日に垂水区役所内のホールで開かれた。歌手のAさんを含め、ゲスト四人のチャリティーコンサートだ。Aさんの歌手の芸歴は、いわゆる「流し」の時代を含めて約五十年だという。この歌手の芸歴はあまり知らなかったが、あらためてその長さに感慨を覚えた。一口に五十年というけれど、艱難辛苦の多さを想うと、歌手人生も大変だとしみじみ思う。

ゲスト出演の女性歌手Bさんは、以前に同じ歌の教室に通っていたので、お互いに顔は知っている。今から十五年位前だが、発表会で聴いた彼女の声は、ところどころに特徴があるのを覚えている。Bさんは皆と違い、初めから歌手を目指していたらしい。

同じ教室で出会う以前から、歌のレッスンを何十年か続けたことも、六年前に知った。そのうちチャンスがめぐってきて、五年後に念願のプロ歌手になった。その後、彼女は教室を去り華やかにデビューした。何度か劇場で歌っているのを見たことあったが、まだ若かったのではつらつとした印象だった。

あれから六年経って、久しぶりに彼女の歌を聴くことになり、歌手としての成長ぶりが楽しみだった。

ステージの幕が開くと、ライトに照らし出されたBさんが微笑んで立っていた。黒っぽい衣装が淋し気に見えた。歌は上手いから、もっと堂々と歌うほうが良いのにと感じた。しかしながらやはりプロ歌手と、趣味で歌っている私達とは違うものを感じた。

私は隣席のYさんに話しかけた。

「実はね、Bさんのこと、私も気になっていたのよ。勿論、歌はうまいけれど、それだけではこの世界で生きてゆけないのよね。どうも観客はメインのAさんの歌を待っているみたいね。彼女は笑顔で歌っているけれど、作曲家に良い歌をもらえるように祈るわ」

 もう一人が言った。

「早くヒット曲に出会えたらいいのにね」

 同席した仲間たちの思いが同じだった。優しい人達ばかりで安心した。

 次に登場した若い男性歌手も神戸市出身であった。この人はYさんを通じて、彼のお店でときどき歌を聴かせてもらっている。すごく良い声で歌もうまい。

まだヒット曲に恵まれずに、飛ばず鳴かずで残念だ。

その後に、もう一人の女性演歌歌手が登場した。この人は九州出身だが、神戸で歌手になったという。もう歌手の中ではベテランでヒット曲もあり、初めて見たが、歌以外にいろんな芸を持ち合わせていると思った。

歌手はいろいろな芸事や、お客とのトークもできないと魅力的になれないのかもしれない。

Bさん言う星が、まだ目立たないのは、歌以外の何かが少し不足しているのかもしれない。

さて、一時間半後、三人の前座の歌が全部終わった。会場は一瞬静まったが、どこからともなく大きな拍手が沸き起こってきた。

同時にメイン歌手のAさんが舞台に現れると、どよめきにも似た声援が響いた。さすがに有名な歌手になると、会場がいっぺんに華やかになった。結構狭いホールだったが、中高年の女性客で一杯だった。時折 「Aさん、可愛いー」などと、黄色い声援が聞こえた。観客はどっと笑いの渦に包まれ盛り上がった。

その声に六十代後半のAさんも驚いたが、愛そうよく声援にこたえて手を振っていた。以前、友人から聞いたのだけれど、「芸能人はいつも笑顔を絶やさず、草の根にも頭を下げるぐらいの根性でないとだめだ」と、聞いたことがあった。とにかく平凡な世界でない。

今日のAさんをはじめ、有名人はたいていキッチリと心得ているみたいだ。Aさんは派手な印象はないが、他のゲストに比べるとやはりオーラがあった。

一時間余りの歌とお喋りは、面白くて退屈しなかった。最後のステージは全員で歌いながら幕になった。司会者が来年のチャリティーコンサートを紹介したが、すぐに完売になるという。

このコンサートは神戸の震災後、何年かたって神戸市が協賛で運営されているらしい。入場料が安く、市民に人気があると聞いた。