小松弘子のブログ

やさしいエッセー

街歩き 美しい日本とは ②

 家の中を掃除していると、ふと外国の風景のカレンダーが目に入った。どこの国の景色だろうと近づいた。とても美しく鮮やかな色彩の街だったので、最初は絵かなと思った。よく見るとアントニ・ガウディの建築物だと説明してあった。この建物はスペインのバルセロナにあるガウディの七つの作品群で、観光客の憩いの場になっているらしい。

 スペインのバルセロナへは三年前に観光で行ったことがある。この場所を訪れたのは一度だけだが、バルセロナの街が一望できる丘からの景色はぼんやりとしか憶えていない。どこの国にもある風景だった、というよりこの丘にある小さな簡易トイレだけが印象に残っている。

 オリンピック会場があった近くの丘で、一人用の古いトイレに入った時の出来事だ。突然にバターン、ガッシャ、鍵がかかってしまったのだ。ドアが締まった途端に電気が消えて、真っ暗になってしまった。私はこの時すぐに鍵を開けようとしたが、ノブの位置が探せずにいた。とにかく誰かにここから出してほしいとそれだけが頭をよぎった。

 しばらくして、やっとノブが見つかったがドアの開け方が分からなかった。どうしよう、こんなところで閉じ込められたと思うと複雑な気持ちになり焦ってきた。丘についた時、誰よりも早くトイレに行こうと思っていたのが運のつきだった。勝手にトイレに走ったのは私一人だったので、誰も気づいていないだろう。ああ、失敗だった。ますます不安になってきた。

 ついに私はこの時「すみませーん」と、大きな声で何回も叫んだ。五分位して添乗員の女性が来てくれた。「お客様、落ち着いて下さい。大丈夫だから私の言うとおりにして下さい。何年か前にも閉じ込められた方がいました。手を壁にそってなぞると鍵が見つかります。見つかったら左に回すとドアが開きます」

 ああ、助かった、やれやれ。その日の出来事は私にとって最悪だったが、同行した息子は「もう、恥ずかしいな。気をつけてな」の一言だった。観光地のトイレは恐い事が待ってるものだ。

 観光地ではいろいろな施設があるが、利用する側は勿論のこと設置管理する方も、もっときちんと気をつけて案内してほしいと思った。皆さん、日本でもお寺や神社に古いトイレを見たら要注意ですよ。中でも特に屋外のトイレには気を付けましょう。

 さて、カレンダーのバルセロナの写真を見ると、子供が喜びそうな、いっけん遊園地のおもちゃみたいな塔や家が並んでいた。

 この時ふと、スペインで見た有名な建築物を思いだした。最近話題のガウディの「サクラダファミリア」という一見風変わりな様式の建物だ。同行した息子からスペイン・バルセロナ旅の一番の見どころだと聞いた場所だった。街は世界中の観光客で一杯だった。雑踏の向こうに、まだ未完成らしい巨大な建造物を見た。

「ええー、この大きな建物はいったい何なの」

「お母さん、何も知らないでこんなに遠くまで来たの?」

観光ガイドの写真でチラッと見たが、その時は何か知らずにいた。

「建築中の聖教会なんだよ。今、世界で最も有名な建築家ガウディの作品だよ」

「ああー、そうだったのか。でも、どこかの遊園地のおもちゃみたいやね」

「そんなことないよ、すごく偉大な建物だよ」

息子はブツブツ言いながら完成間近い教会へ足を速めた。

「ちょっと待ってよ。そんなに早く歩いたらついていかれないわ。迷子になったらどうするの?」

 私はこの時、携帯電話を持っていなかったので、本当に心配だった。トイレの悪夢が思い出され必死で息子の後ろ姿を追った。

 広々とした教会の中を見学したが、観光客のあまりにも多さに迷子にならないか心配だった。もう、海外旅行は終わりにしようと思った。

 二年後、再びスイスとクロアチアへ行くことになるとは、この時は思いもよらなかった。