小松弘子のブログ

やさしいエッセー

健康って素晴らしい

 健康体操教室に通って約二年になろうとしている。この教室は四十年前に作られた女性だけのつどいの場である。

 その教室には、いつも新しい体操を取り入れて、皆を楽しませてくれる先生がいる。六十代とは思えない程、若々しい人である。若さと健康を維持するためには、努力と忍耐力が必要だ。四十年間という年月は、誰でも簡単に健康を維持できない。

 先生は「健康は笑顔、笑顔は健康」をモットーに教室を長く続けてきた。最近では、その言葉の真意がよく理解できる。教室の皆も健康だからこそ、自然に笑顔になり何でも前向きにできる。

「健康って素晴らしい」

 いつまでも先生に体操を続けて欲しいと願っているが、教室に通っている生徒の平均年齢が高齢になってきた。先生も生徒と同じく疲れる日があり、いつまで続けられるか気になっているらしい。一番上の人は八十代になった。それでもなお、元気で皆と一緒になって体操に励んでいる。その人たちも入会した時は四十代だった。長くこの体操教室に通えることに喜びを感じている。健康だから続けられると、いつも体操教室で顔を合わせるたびに話している。

「健康って素晴らしい」

 私は気持ちだけは若いつもりでいるが最近、身体がついていけない年齢になったと思うことがある。

 先日、友達が住む町に行く用事ができた。家でM駅行きのバスの時刻表を見ていたら、

「お母さん、今朝は暖かくて天気がいいので、U駅まで歩いた方がいいよ」

 出勤前の長男が言った。

 U駅へは家から歩いて行けるのだが、ゆるい坂道と登りの百段以上ある階段がある。徒歩ではかなりしんどいと思ったが、

「そうやね、運動のために歩いた方がいいね」

自分の気持ちと反対のことを言った。

「僕の足やったら十五分で行けるけど、お母さんは無理やなあ。まあ、三十分はかかるかな」

 私は、その言葉を聞いた時、母親の体力のなさを息子が感じていたのかと思いつつも、

「M駅へバスに乗った方が早いけど、U駅まで歩くわ」

言ってはみたが、駅まで三十分で着くかどうか?

すぐに家を出て、駅まで歩くことにした。時計と睨めっこしながら少し早足にした。一カ月前にも同じことをしたが、今日も足が思うように進まない。やはり後ろから来た人に、すぐに追いつかれ追い越された。

 途中で犬の散歩をしている近所の人に会った。

「おはようございます。こんなに遠くまで毎日、歩かれているの? すごいですね」

「暇だから、たいしたことないですよ。もう二十年も毎日のように歩いていますよ」

 ご夫婦共とても元気で、笑顔が似合っていた。

まさに「健康って素晴らしい」

 私は駅までの道を、ふうふう、いいながら歩いた。

歩きながら今日もまた、皆に追い越されるだろうと思うと憂鬱になった。

 やっぱりM駅行きのバスにすれば良かった……。日頃の運動不足を悔やんだが、もう遅い。毎日のように歩いている人には到底勝ち目がない。

 若い女性は別として、自分より年配の人に追い越されるのは悔しい思いがする。一度、追い越される原因を探そうと、年配の女性の歩き方を観察した。

 歩幅があまり変わらないのに、なぜ追い越されるのか?

 私の近くを歩いている三人の女性を観察しようと、ベンチに座った。

なるほどね。こうだったのだ。歩幅は同じでも、足の回転数が違っているのだ。自分がほとんどの人に、追い越される原因が分かったような気がした。けれども悲しいかな、あんなにさっさと早く歩けない。あの人たちは毎日のように、車に頼らず歩いているから速度が速いのだろう。その後ろ姿を羨ましく見送った。

「健康で歩けることは素晴らしい」

 その日友達の家から帰る時、歩こうと思ったが、結局のところバスに乗ってしまった。

 

反省……。