小松弘子のブログ

やさしいエッセー

教室の仲間たち

 

 三月に入り、ようやく季節は春らしい日が増えてきた。教室に通って一年が過ぎた。今日も私はいそいそと体操教室に顔を出した。

「お早う」

「まだ、寒いわね」

「あなた、随分姿勢が良くなったわよ」

いつもの会話の始まりである。

早春の木々のきらめきと、空気のすがすがしさが、とても新鮮だ。一年の中で、今が一番好きな季節だ。私は思い切りこの空気を胸一杯吸った。ああ、日本の春はいいなあー。なぜか一瞬にして、幼い頃の自分に戻ったようにも感じた。子供の頃の暖かな家庭を思い出した。けれど、もう昔には戻れない。少し淋しさも味わった。

 朝から始まる体操教室。みんな元気に声を掛け合い、お互いの士気を高め合う。そんな大げさなものではないけれど、最初の全員の「お早うございます」の挨拶では、何か引き締まった気持ちで緊張さえ覚えるのである。一曲目の準備体操から始まり、三曲、四曲の体操が終わる頃になると、みんなホッと一息、手持ちのお茶を口にする。そのとたん、主婦のたわいもない会話に花が咲くのだ。

「あなた、いいの着てるわね。どこで、買ったん」

「大急百貨店よ」

「へえー、なかなか、しゃれてるわね」

「有難う」

「いつもじゃないの、たまたまよ」

大急百貨店とは、朝ドラのべっぴんさんにでてくるデパートのことだ。大半の女性は、相手の服装や、顔の表情にとても敏感な生き物である。自分も全く同類なことに、少し笑いが込み上げてきた。女性独特の、するどい会話である。ほめているのか、似合っていないのに、高いものを着ているわね、そんな声に聞こえている時もある。

「さあ、そろそろステップにしますよ」

先生のよく通る声に、みんなハッとして元の自分好きなスペースに戻り、私も一番後ろのスペースに戻った。

先生の軽やかな見事なステップを見て、少しぐらい上手くまね出来そうに思った。しかし、身体が全然ついていけない。アレッ、簡単そうに見えるがバラバラである。ああ、イヤになってくる。もどかしいけれど、体操を二十年も休んでいたから仕方がないと、半分自分にいいきかせて納得している。早くみんなに追いつきたいと、焦っているが、まあ今はボツボツやるしかない

柔軟体操、ヨガ、整理体操と全十三曲終了。ああ、終わったー。ヤレ、ヤレ、一時間半という時間は短いようで、長く感じることもある。ただ、確かに気持ちはよい。家に帰って、そのまま三十分ゴロンと寝転んだりする時もある。昔は体操が終わっても、もっと、もっと身体を動かしたいと思ったものだ。やはり、まぎれもなく年を取ったのだと痛感した。けれど鏡を見て背中が少し真っすぐに近づいたことは、とても良かったと思っている。この体操でリラックスできて身体が柔らかくなり、健康と元気を取り戻せる。良い事ずくめである。

先生は、四十年という長い時間を体操に捧げてきた。昨年、四十周年を迎えた発表会に参加できた私は、その時に運命的なものを感じた。それは実家の仕事を手伝う事になった為、趣味の体操を辞めざるを得なかった。しかし定年後、自分の健康を考える様になったとき、ふと昔やっていた健康体操を思い出した。私は、何十年かぶりに連絡をし、体操を始めることにした。偶然にも、体操教室の四十周年の節目の年に当たったのだ。思い出してみれば、初めて入会した時も発表会があった記念の年だった。

発表会には六教室の生徒たちが、得意のダンスや体操を披露した。私も参加しつつビデオカメラを回した、思い出深いひと時だった。

そしてまた、四十周年の発表会に、ビデオカメラを撮り、みんなに喜んでもらえた。

先生に感謝、みんなに感謝、楽しい時間を有難う!

体操教室が、末永く続くことを願っている。本当に、明日への元気をもらっている今日この頃である。