小松弘子のブログ

やさしいエッセー

ポピーと潮風の淡路島

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 春のお彼岸に主人のお墓参りを済ませてから、二カ月を過ぎた五月中旬のある夕方。何気なくテレビを見ていると、兵庫県南部の 「淡路島」 の、美しい風景の数々を紹介していた。

「ふーん、淡路島の景色か…。何度も行った土地だ。たいして珍しくも無いけれど、まあ見ておこう」

 と、夕食の用意をしながら、時々テレビに目をやった。最近は一日のうちで、一番忙しい夕方の時間帯だった。

 ところが、ある花のワンシーンを見た一瞬、画面に釘づけになってしまったのだ。

「わあー、すごく綺麗な花の群生! 赤、黄、白、オレンジ色、間違いなくポピーだわ! 素敵な景色」

 思わずその彩りの美しさに、見とれてしまった。五月独特の青空の下、見事に咲き誇っている 「ポピー」 が、やさしい風に揺れているのだった。

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 その瞬間、ぜひこの美しい花を、今この季節に見たいと思った。今までに 「ポピー」 の、花がこんなにも群生して咲いているのを見たことがなかった。

「なんと美しい光景だろう。実際にこの目で見たい!」

 テレビの解説によると、昨年も今年と同様に 「アイリッシュポピー」 は、見ごろを迎えたが、コロナ禍の影響で観光が中止になっていたのだった。今年は一時的に観光が緩和されているので、ぜひ見事に咲いた 「ポピー」 を、見に来てほしいとPRしていた。この映像を見た人は、本当に行ってみたくなるだろうなあ…。

「ポピー」 の、咲いている場所は 「兵庫県立あわじ花さじき」 の、瀬戸内海に面した一角にあるらしい。

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 神戸方面からだと、「淡路IC」 出口の交差点を直進、県道百五十七号沿いに南へ約十二分に位置している県立公園で規模は大きい。嬉しいことに、家からだと三十分位で、「ポピー」 が見られるのだ。丁度、明日は土曜日で 「淡路島」 へ行ける絶好の機会かもしれない…。

 ふと、若い頃の思い出が頭をよぎった。「淡路島」 へは、たびたび訪れたが、観光ではなく、主人の御先祖様のお墓参りや、両親の家に遊びに行くことが多かった。家族と一緒にのんびり過ごしていた。

 あの時代は子育てや仕事に追われ 「淡路島」 の、歴史や名所旧跡に触れることを、あまりしなかったように思う。やっと十年位前から、遅ればせながら自分も旅を楽しむようになった。

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 ただ一番残念に思うのは、最良の 「淡路島」 を知らないで、素通りしてきたことだと気がついた。

 年老いた今頃になって、主人の故郷である 「淡路島」 の、歴史や土地柄の素晴らしさに目を向けなかったことだ。当時を振り返ってみても、正直言って若気の至りとはいえ許されることではない。全く勿体ない時間を費やしたと反省している。

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 さて、テレビで 「ポピー」 を見た次の日が、土曜日だったので、夕食後に息子に言ってみた。

「あのね。明日はすごく良い天気だし、久しぶりに

「淡路島」 に行きたいと思っているの。今日のテレビで 「ポピー」 の花が見ごろらしいので、皆で行ってみない?」

「ふーん、そうやなあ、最近はコロナ禍で、長い間 「淡路島」 もご無沙汰していたので、「花」 の写真でも撮りに行こうか」

 と、息子が機嫌の良い返事をしてくれた。

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「わあ、嬉しいわ。「淡路島」 まで、家から三十分位で到着できるわね。近距離なのが良かったわ。とにかく群生した 「ポピー」 の花は、見たことが無いので本当に楽しみだわ。有難う」

「でもさあ、「ポピー」 の咲いている場所が何処なのか、キッチリと調べておいてね」 

「うん、分かっているわ。テレビを見ながらメモしておいたから、大丈夫よ」

 翌朝、九時に家を出発したので、スムースに念願の 「あわじ花さじき」 に到着した。爽やかな風が吹く駐車場から、小高い丘へ歩いて行った。そこから遠くに、瀬戸内の真っ青な海と空が広がっていた。観光客がほとんどいない緑一杯の丘から、三百六十度のパノラマの壮大な景色が見えた。

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「わー、すごくのんびりした風景ね。とっても気持ちが良いわ。広々とした公園に綺麗な花が一杯よ。空気が美味しいね」 

「そうだね。とてつもなく広い公園だね。どこかの外国の景色によく似ているね。まるで絵に描いたような美しさだね」

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 皆は久しぶりの開放感に、酔いしれているようだった。私はすぐさま色とりどりの「ポピー」 が、咲いている方へ走っていった。そこに小さな女の子が一人、自分で摘んだと思える五本位の 「ポピー」 の、花を持ってポツンと突っ立っていた。

「まあ、可愛いこと!」

女の子は周り一面の 「ポピー」 に、囲まれ、幸せな風に吹かれ、微笑んでいるように見えた。

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 私も童心に帰り飽きることなく、赤、黄、白、オレンジの 「ポピー」 の、咲き誇る丘を一時間位、登ったり下ったりした。よく見ると、他にもいろいろな花壇があったが、やはり 「ポピー」 を、追い続けた。

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「アラッ、ずーっと向こうの丘に乳牛がいるよ。きっと、

牧草が美味しくて満足しているみたいだね」 

広々とした牧場に遊ぶ黒毛和牛を見て、息子が言った。

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「ここは牛乳の生産も盛んで、アイスクリームも美味しいらしいよ。ついでに食べて帰ろうか?」 

「じゃあ、私は売店に寄って 「淡路島」 名産の、「玉ねぎを買って帰るわ」

 久しぶりだったので売店中をうろうろとしていたら、おもむろに入ってきた友人が言った。

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「もう、そろそろ 帰ろうか?」

「エエッツ、もう…」 

「だって、お客さんが増えてきたみたいだよ」 

「そうねえ、残念だけれど仕方ないわねえ」

緑の風と素晴らしかった 「兵庫県立あわじ花さじき」 公園。

 今度来る時は、もっとゆっくりしたいなあ…。 

 

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2021/05/21 #104

 

断捨離1 お助けマン登場

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 わが家の 「断捨離」 が始まって約四か月経過した。一応は家の中も、以前に比べると随分と整理ができたと思う。まだまだ欲を言えばきりがないが、今は普段の生活の落ち着きを取り戻せ、ホットしている。

 これもひとえに 「お助け本舗・街のお助けマンさん」 と、友人達の協力のおかげで 「断捨離」 が、できたと思っている。

 振り返ってみると、何よりも 「お助けマンさん」 の、お二人の手助けが無かったら、今頃は皆が疲れ切り、きっと途方に暮れ「断捨離」 が成功できなかったことだろう…。 

「お助け本舗」 の作業の代金は、簡易的なものから難しいものまで、いろいろな条件で料金は変わるらしい。今回はお二人の所要時間と作業の種類で、一時間で一万一千円だった。料金はそれほど高くないが、大きな洋服タンスだけに、素人だけでは絶対に無理だと判断して依頼させてもらった。料金節約のために、予め中は空っぽにしてタンスも二分割にした。

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 当日 「お助けマンさん」 お二人の印象は頼もしくて爽やかだった。気軽に何でも相談できそうだったので良かったと思った。

 作業が有料だから当たり前、そのように考える人がいるかもしれない。しかしながら、実際に 「お助けマンさん」 の、手助けを体験してみると、決してお金だけの問題ですまないことが分かる。誠意のある仕事ぶりは、消費者の心を安心させるものだ。

 お二人はお客さんの期待を背負って、一生懸命に約束の時間内に、終了させようと頑張ってくれた。その姿は熱意にあふれ、心を動かされたものだ。

 そのたったの一時間の作業であったが、お二人の「お助けマンさん」 は、必死で頭と体を使い、重たい大きな洋服タンスの移動を考えてくれた。

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 初めはタンスを階段から持ち上げようと試みたが、階段の幅が狭くタンスの高さもあり不可能だった。すぐさま次の手段をいろいろと二人で知恵を絞ってくれた結果、車庫の上から二階のベランダの手すりにタンスを乗せ、部屋に入れる案を考えてくれた。

「エエッツ、そんなことできるの!」

 私はその案を聞いて、無理だと不安を感じた。しかしながら、後でわかったのだが、さすがにその方法は みごと的中したのだ。

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 友人と息子も 「お助けマンさん」 に加わり、少しではあるが協力して、四人で何とか移動をすることにした。作業が始まって二十分後、「お助けマンさん」 の、一人が二階の屋根に上り、タンスを持ち上げ、もう一人の人に手渡しているではないか。二度も同じ方法で二階のベランダにあげていた。

 その様子を見た瞬間、

「うわあ、危ない。大丈夫ですか?」

と、思わず声をかけそうになった。あの細い体のどこに底力を秘めているのだろう。プロの職人さんだから、最初から安心をしていたが、お二人の仕事力に感心するばかりだった。結局その方法は成功して、二台とも部屋に堂々と収まった。お二人とも汗がびっしょりだったが、笑顔だったのでひと安心した。

 予定通りの時間内料金で作業が完了し、「お助けマンさん」 が、無事帰られたのでホッとした。流石にプロの仕事は段取りが素晴らしく早い。今、改めて 「有難うございました」 と感謝の気持ちで一杯だ。

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 それから二カ月後、長男と部屋の中を見直した。大きな洋服タンスや窓を塞いでいたテレビの位置替えで、とにかく部屋が明るくなり、以前より広く使えて便利良くなった。

 思い出せばタンスの中の洋服や雑貨を、自分たちで処分できたとしても、大型家具の移動は絶対に無理である。「お助けマンさん」 の、お陰で、今まで狭まかった部屋が、まるでリフォームしたように感じられ嬉しかった。

 この時、息子が言った。

「お母さん、「お助けマンさん」 に、手伝ってもらってとても良かったよ。もし夜中に地震で停電になったらと考えると、大型家具の移動は本当に助かったよ。タンスが倒れたり、逃げ道が塞がれたり、危険が一杯だった部屋だったものね」

 真顔の息子の様子を見て、私は本気で家具の移動の重要性を考えた。今後も 「断捨離」 を、思いついたら、できれば家具の移動を同時に実施した方が良いと強く思った。

 

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2021/05/08 #103

やっと断捨離を始めました

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 寒い二月のある日、いつものように家でテレビを見ていたが、二時間を過ぎると時間がもったいなく感じられた。そうだ、街はコロナ禍であるが、今が一番暇な時期かもしれない。一日も早く何か行動を起こさなければ、大切な時間を無駄にしてしまうだろう…。

 その時、ふと 「断捨離」 の言葉が浮かんだ。今度こそは本気で考えてみようと思った。十年位前に一度 「断捨離」 を、実行してみようと思いつたことがあった。しかしながら、とうとう何もしないで十年が過ぎ去った。

 それからドンドンと家の中の洋服タンスには、サイズの合わない時代遅れのものが、所狭しと溜まっていった。

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 ある時、友人達との会話で 「断捨離」 が、持ち上がった。そこで自分の家の様子を話すと、

「イヤー、私の家も同じよ。本当にその通りで困っているのよ。この歳だから、早く 「断捨離」 を始めないと、残された者に迷惑よね」

と、言った。全くその言葉通りだが、しばらく経ってから何かしら淋しいものを感じた。ああ、やっぱり他人から見れば、私の周りのすべてのものが、無用の長物だろうな…。

 この種類の問題は今までに何度となく、友人の間で良く聞いた。うすうす近い将来に必ず自分にも振りかかってくると覚悟をしていたつもりだったが…。

 その夜、布団の中で 「断捨離」 に、ついて考え自分なりに結論を出した。あくる朝の日曜日は、なぜかスッキリした気分で息子に相談した。

「そろそろ家の中の物を整理しようと思うのよ。今のままじゃ、物が多くて狭くるしいし、これからはちょっとでも、広く有効に使った方が良いものね。ドンドン年も採るし、身体がついていける間に始めないとね」

「全くそうだと思うよ。お母さんの洋服も僕の物も捨てるのは勿体ないけれど、古い洋服類は結局のところ無駄になってしまうものね。最近テレビでよく聞くけれど、五年間、一度も着ないものは絶対に将来も着ないらしいよ」

「そうよね。さあ、ほとんどの物を 「断捨離」 しましょう。さっぱりするわ」

 長男は快く賛成してくれ、協力してくれそうに感じた。将来の生活が少しでも快適に暮らせるように望んでいることが分かり、本当に嬉しかった。

「思い出のある洋服は、少しぐらいなら残しても良いと思うよ」 

「いいのよ。そうと決まったら 「善は急げ!」 で、手始めに簡単な三つの洋服たんすに、焦点を当てることにしましょう」

 私は敢えて明るい声で 「断捨離」 の旗を振った。そう、少し時間に余裕のある間に、中身のある 「断捨離」 が、できそうな気がした。

「断捨離」 の言葉が、主婦の間で瞬く間に流行したのは十年位前だと思う。マスコミのお陰でというか、良いか悪いがは別にして、一般の人々の物に対する価値観が、いっぺんに変化した時代が訪れた。

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 最近、コロナ禍で 「お家時間」 が増え、友人の会話の中にもこの言葉が話題になっている。以前まで私は 「断捨離」 の意味も解らずに、なぜかこの言葉に不快感を持ち、嫌いだった。物を大事にしないで捨てることに長い間、罪悪感がつきまとっていた。昭和生まれの同世代の多くは、現在のように豊富に物がなかったため 「断捨離」 に、否定的な見方が強いと思っていた。

 しかしながら、世の流れというか、だんだんと 「断捨離」 も、正当化され続けているみたいだ。フランスのパリでは、地代が高いため一般人の所有する洋服や食器類の数は、日本人よりも少ないという。

 そのことを知るとなぜかホットした。ゆっくりと家の中を見回すと、不要なものが次々と見えてきた。食器類もあまり使わないものは、倉庫へ直そうと考えた。

「お母さん、使わない食器はこの際、全部処分したら?」

 整理を手伝いに来た、次男の提案に少し違和感を持った私が、声を荒らげて言った。

「みんな捨てれば片付けは楽だけれど…。どれも新品なのよ。老後の生活の楽しみに、一つづつ集めたものばかりなのよ」

 私は少し腹が立って、不機嫌な顔つきななったのだろうか…。

「ごめん、ごめん。そういう意味じゃないよ。少しくらいなら残しても良いよ」

「ああ、いいのよ。将来に使うものだけを食器棚に残して、あまり使わないものは倉庫に収めるわ」

「うん、その方法が一番良いと思うよ」 

 二時間くらい経って、整理が一段落すると、

「今日は他の用事が残っているので、また手伝いに来るよ」

と、言って帰っていった。それきり次男はしばらく来なくなった。後でわかったが、次の週に 「ぎっくり腰」 になり、今も痛みがあり手伝いに来られないらしい。

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 その後、日曜日の度に、長男と二人で家の中を片づけた。「断捨離」 を始めて二か月、随分と物を減らしたつもりだが、実際にはあまり変わっていないと感じた。原因は、やはり捨てられないものが多くなり、タンスに戻したからだ。

 それから一カ月後、洋服類を思い切って半分くらいに減らしてみた。ついでに家具も移動してみると、随分と部屋が明るくなりスッキリした。

 かくして我が家の 「断捨離」 は、一応 今のところ成功した感じだ。とにかく部屋の 「風通し」 が、良くなり気持ちが良いことは確かだ。

 最近は思い切って 「断捨離」 を、実行して良かったとつくづく思っている。

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2021/04/21 #102

人気の店 ブロンコビリー

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月も中旬になり三寒四温の日が続いている。梅の便りも多くなったが、相変わらずコロナ禍は終息しておらず、憂鬱な日もある。

最近テレビニュースで三月初旬をめどに、緊急事態宣言を解除するという噂を耳にした。巷では待ち望む声もあるが、慎重派も多いと聞く。さてどうなるのか、神のみぞ知るところだ。

自分の日常はと言うと、一週間に三日は朝ドラの後、朝十時位までテレビをつけっぱなしで、たまに電話の音にびっくりして起きることがある。ふと目が覚めて、

「今、何時なのか?」 

寝ぼけ眼のまま、勝手に自問自答して、そのまま十分ほどボーっとしている時がある。特に外出の予定がない何日かは、のんびり過ごしている。気楽な生活だと思えばそうだが、本当は何か物足りない。今の生活に変化を付けたいと思ってはいるが…。

案の定、今朝も出勤前の息子に注意されてしまった。

「お母さん、最近朝から毎日のように、テレビを見ているけれど、そのまま何時間も見続けていないだろうね? 良くない習慣だし、自分で分かっているの? 運動をしない生活ばかり送ると、フレイルになってしまうよ。本当に心配するよ」

全く息子の言う通りで、穴があったら入りたい。しかしながら、テレビも悪いだけではない。役立つ情報も沢山あり、気分転換に丁度良い一面もある、と言いたかったが、敢えて反論しなかった。

そんな生活が続いて三週間経ったある日のこと、足の股関節に異変が起きた。足が急に痛くなり歩きにくくなったのだ。原因は昨日まだ慣れないグランドゴルフで、急に沢山歩いたからだった。これくらいの運動で足腰が痛くなるなんて、思いもしなかった。やはり家で一カ月ほどゴロゴロしていたからだろう。自分はまだ大丈夫だと過信していたのだった。

「ああ、このままじゃ駄目だ! 明日から生活態度を変えなければ…」

 と、反省しているところに突然、電話がかかってきた。

「こんにちは。今朝、久しぶりに歌の先生から電話があったよ。コマッちゃんは元気にしているかねと言っていたよ。午後から先生達を訪ねてみようと思っているのだけれど、一緒に行きますか?」

 十年来のカラオケ教室の友人からだった。

「勿論のこと行きたいわ。先生方ともしばらく会っていないので、心配していたところよ。ぜひお会いしたいわ」

 と、快く返事をさせてもらった。午後を過ぎてから先生達にお会いしたが、ご夫婦ともとてもお元気で安心した。世間話が終わってから、夕方に四人でお食事に行くことになった。先生はおもむろに、

「さあて、何が食べたいかなあ? 君たちに任せるよ」

と、言ってくれたのだが、どこに決めれば良いのか、余計にメニューに困ってしまった。こういう時は、なかなか選ぶのに時間がかかることが多い。

そこで私の独断と偏見で決めることを思いついた。

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「あのね、帰り道が夜だと寒いから、とにかくこの近辺が良いと思うのよ。お肉の 『ブロンコビリー』 はどうかしら?」

「ああ、そうだね。『ブロンコビリー』 に決めよう」

 先生が先に賛成の声をあげてくれたので、すんなり決まり良かった。

 『ブロンコビリー』 に着いた時、外はうす暗くなり始め肌寒く感じた。

「わあ、寒くなったから早く、お店に入りましょう」

 と、いつも言葉数の少ない奥様が言った。

「いらっしゃいませ。いつもご来店有難うございます」

 笑顔で迎えてくれたのは、普段から愛想の良い店長さんだった。たまたま家の近くにある店なので、月に数回ここでランチを利用させてもらっている。

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ブロンコビリー』 が、ここで開店してから四年位経つだろうか? 息子達や孫達が 「ハンバーグ」 やステーキが好物なこともあって、ランチタイムに美味しく頂いたものだ。 サラダバーはいつも新鮮な野菜や果物が、並べられているのも魅力だ。平日のランチタイムは大抵の場合、主婦のお喋りの集まりが多いみたいだ。ランチはリーズナブルな価格で、美味しい『ブロンコビリーハンバーグ』 が、特にお薦めだ。ドリンクバーのジェラード付きは、これからの暑い季節に喜ばれるだろう。

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たまに夜の 『グランドメニュー』 の、ステーキを店長さんに薦められるが、数回しか食べたことが無い。勿論のことステーキ好きには、美味しく味わえることに間違いはなかった。デザートもランチタイムより豊富で、静かで落ち着けるので好きだ。

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 そんなことを思い出していたら、ふと一緒に行った友人と目が合った。すると友人が先生に声をかけた。

「先生、早速ですが何でもおっしゃって下さいよ。どのメニューに決められますのか? そうだ、和牛のステーキがお薦めですよ。今夜は皆これに決めましょう」

 と、友人が店長さんに注文をしてくれた。ところが、全くのハプニングが起こった。

「イヤー、すみません。全く申し訳ないのですが、この特別メニューは一つしか残っていないのです」 

 と、言ったので他の三人は別のものを注文した。ああ、折角美味しいものが食べられると思っていたのにガッカリだった。

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 しかしながら、久しぶりに四人でいろんなお話ができ、楽しく有意義な時間を過ごせたので良かった。

 店内は特に清潔をモットーにしているので、安心してお食事をできるお店だ。

 店長さんをはじめ、店員さんも明るくて気軽にお食事ができるので、また行ってみたいお店の一つだ。

 

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誕生美はお好き?

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 一月二十六日は私の誕生日である。誕生月だからと言って、最近は誰にも言えない年である。もし、冗談で歳を聞かれたら、「当年(十年) 取って六十歳」 と、答えることにしている。六十歳以上は年を摂らないことにしている。勿論のこと精神衛生上でのお話である。

 昔から日本人の男性の多くは、女性の値打ちは 「お年」 らしいのだ。まあ、間違っていない? かもしれないけれど、本当に腹が立つと、多くの女性は思っている。まあ、残念だけど容貌はもちろんのこと、女性の魅力は半減することも認めるが…。

 平安時代の美人で有名な 「小野小町」 でさえ、百人一首で嘆いている。

「花の色は移りにけりな いたずらに わが身世にふるながめせしまに」 

 しかしながら実は男性も同じじゃないの? と、反省してもらいたい。が、世間では何かと不利益になるから、今回はこの辺でやめておこう。

 さて、今年の誕生日が近かづいたが、毎年嬉しいやら淋しいやら、感慨深く複雑な気持ちだ。まあ、何とか家族だけでも覚えてくれればよい。 

 と、思っていたら友人三人から、「誕生日おめでとう」 の電話をもらった。そのうちの一人、F子さんの電話は本音ばかりで、いつも面白い。

「コマッちゃん、誕生日おめでとう。あなた今年で何歳になったの?」

「あら、何年たっても、あなたより年上にはならないわよ。安心して!」

「ワハッハッツ、それはそうね。ところで、お元気そうで良かったけれど、実は主人がね、「中納言」 で、あなたの誕生会をしてあげようかと言っているのよ。伊勢海老は好きかしら? 好きだったら遠慮せんといてね。久しぶりにぜひ三人で出かけましょうよ」

 F子さんの思いがけないお誘いに、とても嬉しかったが、少し戸惑ってしまった。

「いやあ、私の誕生日を覚えていてくれてありがとう。 誕生日まではっきり言える人は、あなたと体操教室の先生ぐらいだと思うのよ。今さら言いにくいけれど、あなたの誕生日は全然知らないので教えてよ。エエッツ、真夏の八月二十九日だったの。まだちょっと先ね。その日まで、お互いに元気でいられたら良いね」

 いつも近況の電話をもらっているので、今度は私から 「お誕生日おめでとう」 を、言ってあげたい。

「F子さん、伊勢海老料理なんて嬉しいけれど、しばらくは家で、おとなしくしている方が無難じゃない?」

「そうやね、よく考えたら今の時期、お互いに安全が一番ね。あーあー、残念だけれど仕方がないわね」

 やさしい姉御肌のF子さんの切符の良さに、今回も感謝している。昔から有名ホテルでの食事会や、三ノ宮や元町の一流料亭へ、お呼ばれしたこともたびたびあった。

 私は若い頃どちらかというと、地味な性格だった。F子さんはグルメ通で、珍しい料理や美味しいものが大好きで、特にお肉が好物だと言っていた。とても明るい性格で、あまり小さなことに動じない、セレブな感じを受けた。いつも私とは正反対だと思っていた。

 そんな彼女とは二十五年位前、私が社交ダンスを習い始めた頃に偶然に知り合った。その頃の第一印象は、とにかく映画女優の 「エリザベス・テイラー」 に、よく似ていてすごく美人だと思った。

初めてそのことを褒めると、

「わあ、有難う。若い頃は友達によく似ていると言われたものよ。ただし、私の場合は皆から 「首から上だけは最高よ。ただし中身のスタイルはよく分からないよ」 と言われたものよ。 ワッハッハッツ」

 と、謙遜しながら大笑いするので、長年のあいだ不思議に思っていた。スタイルも 「超ボイン」 で美しい。よく観察しても、決してどこも可笑しくはなかった。一体どういう意味か分からないので、彼女に尋ねたが、いつも笑って教えてくれなかった。

 が、ある時、彼女がそっとその秘密を教えてくれた。

「私はいつも黒系を多く着ているでしょう。黒や白色はシンプルだけれど、細身に見えるのよ。昔から女優さんは 「シンプル イズ、ベスト」 を、モットーにしている人が多いのよ」

 なるほど、秘訣はそうだったのか! 私も負けずに真似をしようと努力したが、結局は成功しなかった。

 理由は明らかだった。肝心の 「顔」 が、邪魔をした。当然のことF子さんや女優さん達と、大きく違い過ぎたからだ。ああ、残念だ!

 

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2021/02/05 #100

幻の「ウィンナーコーヒー」

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 一月初旬の日曜日の朝、起きるなりとても寒いと思った。折角の休日なのに、コロナの影響と寒さで、今日も一日中 「テレビの番」 で終わるのかしら?

 年末以降、近畿地方も昨年より冬型の日が多かった。テレビによると日本列島全体が、強い寒気団に覆われているらしい。そのせいで日本海側では、いわゆる 「どか雪」 に見舞われたのだ。

 「どか雪」 は、道路の大渋滞や雪下ろしによる人災など、悲惨な爪痕を容赦なく残した。連日の大雪のニュースを見て、思わず身震いをした。

 この時期は本来なら、積雪がこの上なく美しい筈の北国だ。けれども以前のような綺麗な印象はなく、苛酷で恐いだけの映像だった。

「わあ、北国の人達は、この先もずっと大変な生活が続くのね。本当に気の毒なことね。何とかして助けてあげたいわね…。私達も家の中で缶詰ね。ああーああ、本当に一日が長くなりそうで退屈だわね…」

 と、二階から起きてきた息子に気づき呟いた。

「お母さん、おはよう。今日も寒いし、コロナ禍やし、どこにも行けなくても仕方がないやん」

 皆が我慢しているのだから、辛抱するのが当然だと、言っているように聞えた。

「それはその通りだけれど、連日ジーッと座っているのも辛いものよ。お買い物だけでも出かけてみたいわ」

 その時、私の軽快な音楽の携帯電話が鳴った。

「もしもし、お母さん。元気にしている? もしさあ、

どこかへ出かける用事がなったら、皆で家に寄らしてもらっても良いかな?」

 次男のいつになく明るい声だった。

「おはよう。朝早い電話だけれど、何か変ったことでもあったの?」

 この時、去年末に聞いた孫達のつぶやきを、ふと思い出した。休日になるとお父さんの朝寝坊で、世話が焼けるというのだ。まだ子供の頃の朝寝坊が続いていたのだ。

「イヤー、別に変わったことはないよ。ああ、そうそう、このあいだお母さんにもらった 「ぜんざい」 美味しかったよ。有難う。その容器を返そうと思ってね」

 次男から朝早く、かかってくる電話は珍しい。今日はよほど暇なのだろう? それともいたずら盛りの子供達に、無理やり起こされたのか? 

「こちらも暇だから、モーニングコーヒーでもどう? 近くのコメダ珈琲店に珍しいコーヒーがあるので行きましょう」

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 私は喫茶店へ行く寄りも、二人の孫達に会えるのが嬉しかった。去年一年間はコロナ禍と、孫達の塾やお稽古が多くなり、次男家族とあまり会話をしていなかった。

 今年は顔を見るのは、お正月から二回目だ。

「おばあちゃん、おはよう」

 玄関口から元気な声がした。つかつかと台所に現れたのは、まだ小学生の孫達だった。二人はニッコリ挨拶をしてから、走ってデズニーチャンネルが見れる部屋に行った。テレビの前だけはいつもおとなしくしている。子供達はそれだけを楽しみにしているのかも…。それでも来てくれるだけで、今の私は充分幸せなのだ。

「お義母さん、朝からお邪魔してすみません。途中で 「コメダ珈琲店」 の前を通ったのだけれど、いつもこんなに混んでいるのですか。本店は確か名古屋市と聞いていますが、最近は近畿地方でも、良く見かけるようになりましたね」

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 お嫁さんの情報源には、いつも驚かされている。

「そうなのよ。ここも開店してから七年位になるけれど、ほとんど年中お客さんで一杯みたいよ。お買い物の時とか、お稽古へ行く途中で、この店を通るのだけれど、いつも満車みたいよ。そうそう、友人が薦めてくれた名古屋店名物の 「小豆コーヒー」 も、美味しいわよ。半信半疑だったけれど、本当にコーヒーの中に小豆が入っていたので、ビックリしたわよ」

 皆がそろったので、すぐに喫茶店に入った。

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「さあーって、今日はどれを飲もうかなあ。アッツ、変わったコーヒーがあるわ。初めてやから、これに決めた! 久しぶりのウインナーコーヒーや」

 メニューを見た瞬間、お嫁さんが思わず笑い転げた。

「エエッツ、マジでこれを飲むつもりなの? また変な癖が始まったわ。本当に大丈夫?」 

 私は、お嫁さんの半分あきれた顔を見て、

「どれどれ、「ウインナーコーヒー」 ね。 ウーン、確か五十年位前によく流行っていたわ。クリームホイップが入った珈琲でしょ。特別に珍しくもなく、変わってもないと思うけれど…」

 と、次男の持っていたメニューを覗き込んだ。

「アッ、それとは違う、違うよ。ほら、その横のコーヒーカップの中をよく見てよ」 

「エエッツ、嘘でしょう!」 

な、なんとウインナーソーセージが一本、堂々とカップに入っているではないか! 

「あり得ない! 夢を見ているみたい」

 まったく信じられないメニューを考えつく人がいるものだ。ユーモアたっぷりというか、ダジャレというか、私もしばらく笑いが止まらなかった。

「ああーああー、アホクサ!」 

 でも、話のネタにはなりそうだ。どんな味がするのだろう? ちょっと面白くなりそうだ。興味津々だ。

 ところが結局のところ 「ウインナーコーヒー」 は、いつまで待ってもテーブルに乗らなかった。遅いなあ、 どうなったのかしら?

 次々にメニューのコーヒー類が運ばれたが、どうも 「ウインナーコーヒー」 は、見当たらなかった。アレッ、可笑しいなあ? 次男に聞くと 「ハチミツ入り何とかコーヒー」 を、注文したという。

 やはり、挑戦するにはハードルが高すぎたのだろうか? チョットだけ本物の 「ウインナーコーヒー」 を、期待していたのに残念だったなあ…。

 今度は絶対に皆より先に 「コメダ珈琲店のウインナーコーヒー」 を、飲んでみたいと考えている。

 

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 追伸、今週二度、このお店で念願の 「ウインナーコーヒー」 を注文した。しかしながら飲むことができなかった。店員さんにしつこく尋ねたが、今までお客さんからの注文もなく、元々メニューにも無いというのだった。 

 突然に 「奈落の底」 に突き落とされた心境だった。憧れの 「ウインナーコーヒー」 から一転して 「幻のウインナーコーヒー」 に、変わってしまった。どう考えてみても不思議な現象というか、納得できない話だった。

 早速、帰宅した長男に、この話の成り行きを聞いてもらった。ところが返答は意外だった。

「お母さん、あの日の朝は寝不足気味だと言っていたよ。だからきっと 「まぼろし」 を、見ていたんじゃない。それとも認知症の始まりかな?」

と、いつにない冷静な対応だったので驚いた。

「あらっ、よく言うわね。絶対に夢なんかじゃないわ」

「じゃあ、一度お嫁さんに電話をして、確かめてみたらハッキリすると思うよ」 

 ああ、なんということかしら。長男にも信用してもらえなんて。こんな話など、めったに人に言えないでしょうに…。最後の望みは次男にかかっている!

 今日スーパーで買物をしていると、ふと 「謎のウインナーソーセージ」 が、目に入った。ウーンどうしたものか? ソーセージが恨めしい。

一日も早く 「幻のウインナーコーヒー」 の、謎を解明したいものだ!

 

 

2020/01/27 #99

人気の珈琲屋さん

 二〇二一年一月二日、神戸市全体は冬の寒さの中にも、日差しは春のような太陽が降り注いでいた。年末から寒波の影響で寒い日が続いていたが、今朝の空は明るくて、少し暖かみを感じた。

 近くに住む兄夫婦に、初詣のこと何か教えてもらおうと電話をかけた。兄夫婦にはグランドゴルフで何かとお世話になっている。年始に電話をかけるのは久しぶりだった。

「もしもし、おめでとうございます。昨年はいろいろとお世話になりまして有難うございました。本年もどうぞよろしくお願いします」

兄が先に電話口に出てくれた。

「おめでとうさん、こちらこそよろしくね。ああ、ちょっと嫁さんに変わるね」

と、言って兄嫁さんの中子さんに変わった。お互いにお決まりの挨拶を交わした。話の中で昨日の朝早く、家族ずれで地元の長田神社に初詣を済ませたことが分かった。また今年はコロナ禍で、三社参りは断念したとのこと。初詣の人並みは去年と比べ、グッと少なかったらしい。

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 良い情報をもらったので、「密」 を避けるため、我が家も早速、長田神社の初詣に出かけた。神社近くの商店街はいつになくひっそりとしていた。コロナの影響を受け周辺の人通りも少なかった。皆マスク姿で喋り声さえまばらだった。

「寂しいなあ。帰り道このままどこにも行けない?」 私は折角のお正月が勿体ない気がした。そうだ帰り道を変更してみたら、何かを発見できるかもしれないと思った。そうだ、須磨区に入れば美しい松並木の続く浜辺を見ることができるだろう。

その間、車窓から見るともなく古い建物や、近代的な建物が、ごちゃごちゃと混ざった街並みをボーっとして眺めていた。どこか空しい景色に感じたこれもコロナ禍のせいだろうか?

 しばらくして須磨区に入ると、パッと視界が広い海に変わった。そのまま海岸線を西へ八キロ位走ると、前方には雄大明石海峡大橋が、高くそびえているのが見えた。

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「わあ、いつ見ても素晴らしい景色だ。特に今日のように晴天の日は絶景ね」

昔から歌に歌われている舞子の浜付近は、とても眺望が美しくて風光明媚な場所である。お正月二日目なので国道を走るトラックが見当たらない。いつもより空気が綺麗だと思った。そのうちに少し渋滞気味になり、何回か赤信号に引っかかった。

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「ねえ、明石海峡大橋の少し向こうに 「星野珈琲店」 の、看板が見えてきたわ。久しぶりに寄ってみない。お正月だから新しいメニューがあるかもしれないわ」

 最近は息子達もコロナの影響で、どこにも行っていないようなで誘ってみた。

「そうやなあ。家の近くまで来たし、コーヒーでも飲んでホッとしたいなあ」

 すぐに店に入ることにしたが、駐車場が空いているかどうか気になった。今日は垂水区にあるアウトレットの初売りの日だったため、反対車線の明石方面からの東行きは、かなり渋滞している様だった。ところが運良く一台分だけ空いているのが見えた。今回も 「斎藤一人さん」 の、おまじないを使わせてもらったお陰で駐車できた。

「星野珈琲店」 の、すぐ側は瀬戸内海なので、とても景色が良い。瀟洒な建物も女性客に人気が高い。ウインドウには美味しいそうなメニューが、豊富に並んでいた。

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 すぐに案内されたが、お正月でやはりお客さんで一杯だった。しかしながら、天井が高いので、静かな雰囲気を醸し出していた。

「さあ、何を頂こうかなあ」 

 と、私が独り言をつぶやいたとたん、息子が言った。

「注文はコーヒーに決まってると思うけれど…。ここは珈琲屋さんだよ。コーヒーじゃなくて何を飲もうと考えていたの?」

「あら、分かっているわ。コーヒーとメインの食事は別なのよ。メニューを見たら、どれもすごく美味しそうだから迷っているのよ」

「ああ、そうだったのか? それにしても沢山の軽食があり、この店に来て良かったわ」

 息子達もメニューを捜していたが、結局は好物のオムライスと 「星野オリジナル珈琲」 を、注文した。f:id:komatsuhiroko:20210117133145j:plain

「もっと、変ったものを選んだ方が楽しいのに…」

「僕の勝手だから、ほっておいてよ」

 私は 「織姫」 と、いうコーヒーと大きなスイーッツ」 を、注文した。

「お母さんはいつも目新しいものばかり注文して、失敗しているけど大丈夫なの?」

「だって、何事も失敗しないと成長しないものよ。コーヒー位は変ったものを挑戦した方が良いと思うわよ」

「そうかなあ、じゃあ、二杯目は 「織姫」 に、決めてみよう」

 と、言ったので他の人も 「織姫」 を、選んで飲んでいた。特に息子は気に入ったように見えた。

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後で別の店員さんに 「織姫」 の、評価を尋ねてみたところ、すごく美味しくて注文が多いとのこと。ああ、今回は正解で良かった。

 それから数日後、友人達とこのあいだの 「星野珈琲店」 へ、行く機会があった。私は友人達に二杯目を、紅茶にしたらと薦めてみることにした。メニューには 「オリジナル・フルーツティー」 と書いてあった。よく見ると紅茶に何種類かの果物が入っていかにも美味しそうだった。少し躊躇したが、この時も変わった味だけれど、珍しくて美味しいと賛同してくれたので良かった。

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 これを機会に、美味しい珈琲屋さんを探す趣味も、案外と面白いかもしれない。その時ふと、コーヒー好きだった亡き父を思い出した。父の自慢は何百件かある神戸中の喫茶店を、ほとんど制覇したことだった。母は父のコーヒー好きが大嫌いだったので、よくケンカしていた。自分だけ良い目をしているというのだ。

ある時、高校生になった私は、母に喫茶店の楽しさの話をしたが、全く聞く耳を持たなかった。母は反対に、生涯を一度たりとも喫茶店に行かなかったことを、自慢にしていた。つつましく真っすぐな性格だったのだろう。昔の女性はささやかな美徳で満足していたのだ。ああ、全く損な時代だったと思う。

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 そういえばあの頃、三人兄弟のうち私だけが父の味方だった。なぜか父のコーヒー好きが理解でき、父の子供の頃や、丁稚時代の冒険話も面白いと思っていた。だから幼い頃から小学低学年まで時々、母に内緒で父と喫茶店で、いつもミルクコーヒーやジュース類をご馳走してくれた。子供心にとても美味しかったことを覚えている。

母や兄弟に分かったら叱られるので、ずーっと長い間、父との喫茶店巡りは秘密にしていた。今も誰も知らないと思う。

 しかしながら、今となっては何もかも懐かしい…。思い出の一つ一つが、微笑ましいエピソードとして、私の頭のかたすみに残っている。

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2020/01/17 #98