小松弘子のブログ

やさしいエッセー

パソコンから消えたエッセイが突然に他機種から出現!

 このあいだ買ったばかりの新品のパソコンが故障して、結局は返品することになった。私の心の中では、同等の商品の交換でも良いと思っていた。しかし息子と検討した結果、今はしばらく買わない方向に決まった。 

 決定的な理由は、国産品の方が何かにつけて安心できるからだ。書きあがったエッセイのデーターが、結局出で来ないことも一因あった。

 店員さんは故障の原因は機械の初期不良であり、全くの不可抗力で、こちら側のミスでもないので、同じものを交換できますよと言った。しかし息子は断った。やはり国産品でないと、また同じような結果になる可能性を嫌ったからだ。というのも商品の説明書が雑で、あまり説明書を信用できないとも言っていた。

 そういえば、息子はこのパソコンを立ち上げるのに、四時間も費やしていた。もう二度と同じことを繰り返したくないとも言っていた。やはり機械類を買うなら、国産品が安心、信頼性が高いという。

 あれから一カ月が過ぎたが、私は古いパソコンでエッセイを書こうとしたが、全然進まない日が続いた。

「お母さん、早くエッセイを始めないとボケてしまうよ」

 息子が心配してくれているのが分かった。

「うん、書こうと思うだけで全然進まないのよ。お店に返品したあのパソコン、とても使いやすかったのよ。もし故障しなかったら、今頃もっとエッセイが書けていたかもね。本当に残念だわ。今度あれ以上のものに出会えるかしら?」

「そりゃ、価格的にあのクラスならいくらでも売っているよ。ただしデスクトップ型で国産メーカーだと、二十五万円位はするな。その分、このあいだのパソコンみたいに、二日では故障しないけれどな」

 やはり息子は国産品を推奨していた。

「お母さん、良いことを思いついたよ。この出来事を題材にしたエッセイなんかどう?」

 息子の提案に少し気持ちを入れ替えようと思った。

「そうしてみるわ…。」

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 言ったものの、エッセイが書けなかった。あれから一カ月が経ったある日、二階から、どやどやと息子が下りてきた。

「お母さん、これ見て! 消えた筈のエッセイが、僕のパソコンに残っていたよ!」

 と言って、二枚のコピーを見せた。

「まあ、不思議なこともあるのね。 どれどれ、本当の話なの。チョット見せて!」

 そこには諦めていた原稿があったのだ。全く信じられない出来事に目を疑った。

「わあ、嬉しいわ。でも、なんで二階のパソコンから、消えたエッセイが出てくるのかしら?」

「はっきりしたことは分からないけれど、返品したパソコンのソフトと二階のパソコンのものが、どうも連動していたみたいなんだ。それに書いた内容が自動的に保存されていたみたい。さっき僕のプリンターの調子が悪くて触っていたら、お母さんのエッセイが出てきたので本当にびっくりしたよ」

 このことも青天の霹靂だった。既にエッセイが消えてから、一カ月半が過ぎようとしていた矢先だった。

もう自分の中では、すっかり諦めていたのに…。

 息子から手渡されたコピーを見て、本当はもっと嬉しいはずなのに心は冷えていた。鈍感な自分でも、さすがに消えたエッセイの件はショックが大きかった。しかしながら、せっかく手元の戻った原稿だから、一応は読むことした。

 エッセイの題は 『新しいパソコン』 だった。息子がプレゼントしてくれた経緯とか、いつまでたっても書こうとしない私に対する 『エール』 が綴られていた。

 自分の書いた過去のものを読み返すのは、なんだか恥ずかしいような気持ちだ。事実、本当に文章が下手だと思った。それに平凡で面白くもなかった。

 この正直な気持ちを息子に言うと、

「お母さん、あの日は店員さんに大事なエッセイが、消えたと大げさに言っていたよ。それにこれまでに増して上手く書けたともね」

「ああ、そうだったわね。本当に恥ずかしい。失態とはこのことを言うのね。でも原稿が出てきて、すっきりしたわ。有難う」

 あの日の騒動が嘘みたいな、不可解な出来事だった。まあ、原稿の喪失騒ぎが解決できて、ひと安心だ。さて、消えないうちにプリンターを起動しておこう…。

 

 2020/09/30 #82